【一】1 部活帰りの夜七時

1/1
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ

【一】1 部活帰りの夜七時

 部活の帰り道、折原朔也(さくや)は乗り換えの駅で幼馴染みの今井はるかと別れて改札を出た。夜の七時前でもコンコースには昼のむわっとする空気が残り、帰り道を急ぐ人々の喧噪で暑苦しい。タオルで額の汗を拭いながら目印の看板へ向かおうとすると、突然くいと服の後ろを引っ張られた。 「お前、背が高くて見つけやすすぎ」  白シャツに黒のズボンの制服を着た山宮基一(もとい)がマスクを外し、いたずらっぽく笑ってこちらを見上げている。つむじから伸びたツーブロックの長い前髪が汗でぺたっとくっついているのを見て、思わずこちらも口端があがった。茶髪で天パの自分とは違う黒髪が今日はなんだか暑そうだ。 「山宮、先に着いてたんだ。迷った?」 「いや。改札を出てくるとこからお前を見てたわ」  山宮はそう言い、出口のほうを指さした。 「暑ちい。早くどこかに入ろうぜ。クーラーが俺を呼んでるわ」 「オーケー」  朔也が笑顔で頷くと山宮も笑みを浮かべて歩き出した。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!