『あたし、ごめんなさいをしてない!』

1/1
前へ
/30ページ
次へ

『あたし、ごめんなさいをしてない!』

「……話すの、こっちでいい?」  藤倉君は私に手まねきをして、部室の建物の横に移動した。小走りでついていく。 「……それで、話したい事って……」 「あ、あのね……修学旅行のときのこ、と…………!!」  息が止まる。  久しぶりにちゃんと藤倉君と目が合って。  立ちすくむ。  寂しそうで、悲しそうで、困ってそうな藤倉君の顔を見て。  言葉が出なくなる。  あれはウソなの。  イヤな気持ちにさせてごめんなさい。  本当は。  本当は………!  言わなきゃ、謝らなきゃ。  これが最後のチャンスなのに。    でも。  何から。   何を。    何て。  伝えたいことがあるのに。  藤倉君がせっかく私を見てくれているのに。  早く。  なのに。  何で。 「………………?」  何も言わない私に、藤倉君が首をかしげている。    早く。  早く言わないと……!   『あたし、ごめんなさいをしてない!』  えっ?  突然。  泣いている小さな子の姿が浮かんだ。  え?  この子……いまちゃん?   『いつもみたいに、また会えるって……! 会えるってえっ!』  お母さんにしがみついて泣きじゃくる、小さないまちゃん。  まるで。  まるで。  大切な物を失ってしまったかのように。  泣いてる。  叫んでる。 『圭太! 圭太……どこっ?! ごめんなさいしたい! どこにいるの? 何で出てきてくんないの? ……神様のところに行っちゃったなんて、ウソだ、ウソだ、ウ、ソ……う、ああ……あああああ!』 『伊万里(いまり)……』 『やだ! やだ! あたし、ここだよ! 早く来て! 早く……圭太! 圭太あああ! うわああああああ! う、ああああああああん!』  お母さんの服を両手で掴んで引っぱって。  顔をクシャクシャにして。  いまちゃんが、泣いている。    これって。  まさか。  まさか。  その時、私見てたの?  ……いまちゃん!  いまちゃん、いまちゃん!  ごめんね。  情けない私の背中をまた、押してくれた。  押して、くれた。 「……あのさ、無理して話そうとしなくてもいいよ。もし言いづらいなら、俺から……」 「無理じゃない!!!」 「……え?」 「あるの! お話したいこと!」  
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加