Sweet Pain : 圭ちゃんの十字架

7/8
前へ
/8ページ
次へ
 僕も彼女も互いのことを親友と見なしていたと思う。  決して恋愛感情に発展することはなかった。  恋することの多かった僕のことだから、その可能性くらいは感じていたが、今から思えば彼女は僕に一切「女」を見せなかった気がする。  純粋な魂の触れ合いで、だから僕は踏み込めなかったのだろう。  一度僕が電話で話そうと持ち掛けたが、彼女は「耳が悪いから電話で話せないんだ。ごめん」という返事を寄越した。  かつては電話魔といわれるくらい電話好きだったらしいが、病か何かで音楽もフルボリュームにしないと実はきこえないのだと告白した。  結局僕らの関係を端的にいえば、ひたすらに互いの青臭い人生論を戦わせる間柄だった。  そして若さゆえ、互いに分かり合えないことが出てくると、その失望を隠せなかった。  もしかしたら、そうやってぴったり心で寄り添っていたはずの僕らは、少しずつ距離ができてきたのかもしれない。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加