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「誰か……」
刺された脇腹を押さえながら、少年は力の限り声を張り上げた。幸いにも、すぐに近衛騎士が駆けつけ、少年を刺した犯人はすでに取り押さえられている。
その犯人が連れ去ろうとした彼女は、怪我一つなく無事であったことに安堵する。
その途端、彼は意識を失った――。
少年を刺したのは庭師に扮した男だった。限られた人物しか足を踏み入れることができないこの庭園で、少年は彼女の手を繋いで花を愛でていた。少年たちから少し離れた場所には、万が一に備えて護衛騎士が控えている。
庭師の男はいつもと違う男だったが、少年が声をかけると、庭園に咲き誇る花について教えてくれた。だから少年もその男が新しい庭師だと思ったのだ。庭師に案内され、彼女と共に庭園を歩く。小さな彼女は、楽しそうにキャキャと声を出して笑っていた。
と、そのとき、腹部に鋭い痛みが走った。いや、痛いというよりは熱い。身体に力が入らず、腹部を押さえて膝をつく。気付けば手を繋いでいたはずの彼女は、あの庭師の男の腕の中にある。
彼女の名を呼び、助けを呼んだところまでは覚えている。
傷の痛みで意識が朦朧としている中、優しく頭を撫でてくれたのは少年の母親だった。
「あなたのおかげね。あの子を守ってくれてありがとう。でもね、あなたの命も大事なのよ……」
傷が深かったせいか、少年はしばらくの間、寝台の上から動くことができなかった。
夢と現実の世界をいったりきたりしながら、彼女と初めて出会ったときのことを思い出していた。
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少年が痛みから回復をし、やっと動けるようになった頃。
彼女の姿はもうここにはなかった。歯を食いしばりながら母親に詰め寄ると「あの子を守るため」だと言う。
少年は悔しかった。自分には彼女を守るための力がないということに気づいてしまったからだ。
そんな彼の気持ちを母親は察したのかもしれない。
「生きていれば、必ずまた会えるわ。あなたとあの子を守るためには、これが一番いい方法なのよ」
どこか寂しそうに呟く母親の横で、少年は唇を噛みしめることしかできなかった。
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