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湯煙のフィルター
もう一度聞かせて
私がそう言うと
あなたはカップを置いて笑った
恥ずかしそうに
眼鏡を拭きながら
何度も言える台詞じゃないって
聞き間違いでなければ
すごくうれしい言葉だったはず
珈琲の白い湯気の向こうで
きれいに微笑むあなたは
一枚のフィルターを通して
今日はかわいいねって
言ってくれたように聞こえた
そこに含まれている裏の意味が
あったとしても
単純にありのままの意味で
あったとしても
ぐずぐず考えたって
仕方がないことなんだよね
なので湯煙のフィルターという
濾過装置が
言葉を美しく仕上げたんだと
白い霞の幕に
身勝手な願いを乗せて
私は改めて
あなたの目を見つめ
もう一度聞かせて
と
ねだり顔で言った
やり直しがきくこと
やり直しがきかないこと
分かっているつもりだけど
これは
多分前者で
それを
しないのは良くなくて
そうすることが
二人のベストだから
想いを湯気にブレンドして
苦さを甘さに変えたくなった
するとあなたは
照れたように目を逸らし
今日はかわいいねって
言っただけだよと
口元を隠すように
珈琲を一口すすって見せた
やっぱりあなたは
私に恋を与えてくれるひと
白い湯気のせいかな
あなたがきらきらゆらめいて
童話に出てくる王子様だと
確信した瞬間だった
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