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◇
「それにしても、こんなにも早く連絡くれるなんて」
「昨日の今日だもんね?自分でも呆れる」
私は中村春馬を仕事終わりにLINEで呼び出していた。
私の方が先に終わったので、少し待ったけど。
「このバーも久しぶりだよな」
懐かしそうな中村春馬の顔を見て、なんだか感傷的になってしまう。
あの頃に戻りたいな、と思ってしまった。
この人と付き合っていたあの頃。
その前の、付き合うか付き合わないかの時もとても楽しかったな。
このダイニングバーは私のマンションの近くに有り、昔によく中村春馬と来ていた。
あの店で、としかこの人にメッセージしなかったけど、迷う事なくこのバーに中村春馬は来てくれた。
「俺がこの店で十和子に告白して…。
その時と同じテーブル」
そう言われて、そう言われれば、と思いだす。
テーブル迄は言われる迄思い出さなかったけど、この人に告白された事は凄く覚えている。
「婚約者が居るのに、よく私に告白して来たよね?」
もう昔の事だからか、呆れたようにふっと鼻で笑ってしまう。
昔はその事実を知って、私は死にたいくらい傷付いて、涙がカラカラになる迄泣いた。
この人はそんな事知らないだろうけど。
「婚約者は居たけど。
だって、十和子の事を好きになってしまったから」
「なに、それ…」
本当に呆れてしまう。
婚約者にも私に対しても不誠実で。
なのに、これっぽっちも罪悪感なんて抱いてなさそうで。
「ダメだと分かっていても、好きになる気持ちは止められないから。
とりあえず、俺、ビール頼む」
中村春馬は近くに居た若いウェイターに、ビールとサーモンのカルパッチョを頼んでいた。
「私はジントニックおかわり」
余っていたジントニックを飲み干し、横から私も注文する。
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