1

3/16
前へ
/50ページ
次へ
中村春馬は私と別れてすぐに結婚をした。 ちょうど5年前。 彼に実は婚約者が居るのだと知って、私達は別れる事となるのだが、 その少し前に彼が札幌支社に転勤になる事が決まって、中村春馬の"色々"な事が社内で噂になった。 実は中村春馬は、大手老舗文具メーカーであるうちの会社の文夢堂会長の孫で本社社長の一人息子。 そんなお坊ちゃんの彼には決まった婚約者が居て、札幌に転勤になる前にその婚約者と入籍し、落ち着いたら式を執り行う予定だとか。 それまで中村春馬が会長の孫だとかは、社内では公にされていなくて。 私を含め周りは驚いていた。 「ほら?中村って特に珍しい名字じゃないから誰も気付かないんだよね。 会長や社長も中村なのに。 一部の人間しか知らなかったから、最近、それを知った部長の俺に対する態度が豹変して、笑っちゃうんだよ」 って、中村春馬本人もあっけらかんとそんな周りに話していた。 3ヶ月の短い交際だったとはいえ、付き合っている私にさえその真実を隠しているなんて。 そして、婚約者の事を二人になった時に問いただした。 「婚約も親が強引に進めた事で、俺の意思ではないんだけど。 今回の転勤の前に籍は入れておけって、親に急かされている」 「じゃあ、私と別れるって事?」 「うーん。十和子とは俺が結婚してもこのまま付き合っていけたらな、って、俺は思ってるんだけど」 「は?何言ってんの? それって私に愛人になれって事?! ふざけないで!別れる!」
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

435人が本棚に入れています
本棚に追加