主人公は私です。

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私はある日駅にいた。 仕事が終わり、帰宅をするために電車を待つ長い列に並ぶ。一回電車を見送らなければ乗れないであろうからいつもみたいにスマホであれこれと検索をする。 行く予定のない街の情報。会うこともない有名人の顔。何かに役に立つかもしれないが、今は必要のない情報。この時間や情報に意味はない。だけれども検索をやめられない。 少し飽きた私は過去のことを回想した。小学生だった私は周りの同級生みたいにスマホを持たせてもらえなかった。だけどそれほど不自由ではなかった。 小学生にはテレパシーみたいな繫がりがあり、約束しなくてもなんとなくで待ち合わせもできる。 そういえば、転校した子がいた。名前は、ゆりかちゃんだ。ゆりかちゃんの家は複雑だった。 シングルマザーのお母さんは、とてもがんばり屋だとゆりかちゃんは言っていた。毎朝早くにスーパーの品出しのバイトに出かけ、しばらくしたら介護施設に働きに行く生活をしていた。 ある日ゆりかちゃんの家に、一人の男が来た。 母親の恋人だと言うその男は、どう見てもダメなやつだった。 働きもせず、酒臭く、近所の公園で寝ている姿を何度も通報されるようなやつだった。 その男から逃げるために、ゆりかちゃんは、お母さんと引っ越してしまったのだ。 でも私とゆりかちゃんは、不思議な縁で結ばれていた。連絡もしてないのに、旅行に行った先であったり、友だちと遊びに行った先で出会ったり。 細くて長い関係性の友人だった。 やがて私とゆりかちゃんは、大人になった。 そして同じ大学に入学した。私たちはまた昔みたいに楽しく大学生活をおくった。そして私は一般企業の事務員となった。ゆりかちゃんは世界に羽ばたくために海外に行き就職をした。またゆりかちゃんと別れてしまった。私たちは、しばらくあれこれとやり取りをしてきたが、私が結婚し出産をして忙しくなると、ゆりかちゃんとの時間も減り、なんとなくお互い連絡をとらなくなっていった。 そのゆりかちゃんが、今私の目の前にいる。 ネットニュースで映し出されたゆりかちゃんは、昔と変わらず美しかった。だけどもうゆりかちゃんは、いないのだ。海外で起きた地震により亡くなってしまったのだ。あんなに縁があったのに、お別れは突然なんて。私はやっと乗れた電車の中で泣いた。 私はハンカチで涙を拭き、ふと満員電車の奥にいる人達を見た。みんなそれぞれに自分の時間を過している。 その中に、いたのだ。 ゆりかちゃんが。ゆりかちゃんは、私をじっと見ていた。やがて、「さようなら。」と言った。 ゆりかちゃんは、消えていった。 私は今日も電車に乗る。 会えるはずのないゆりかちゃんに、また会えるような気がしてしまう。
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