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そこわかれ
刻人さんの態度が冷たい。
那智はそう思ってげんなりとした。
最初は風呂上がり。
まあ風呂と言っても刻人が住居然としている廃ビルにはシャワーしかないのだが。
那智はシャワーをかりた後、仕事のだろう資料を読んでいる刻人にすり寄った。
「ねー、刻人さんご飯食べに行こうよ。ご飯!最近ここらへんにおいしい焼肉屋さんができてさー。俺行ってみたいと思ってたんだよねえ」
そう言うとぺしっと顔を軽く叩かれた。
「悪い。また今度」
はね除けられたのだとわずかかかって気付く。
後日、その話を蒸し返すと刻人は言った。
「焼肉?そんな話したか?だいたい肉なんて胸焼けしそうだし中年近くの男が行く場所じゃないだろ」
人の話を聞いてないことがあるのを公言しているのは知っている。
でも、これはあんまりなので文句を言おうとするが一時が万事この調子なので文句を言う気力も失せてくる。
そのくせ部屋で食べる飯はカップラーメンかよくて出前のうどんそば。
どれだけ麺好きなんだと思うのだが、それが刻人の食の常なのだ。
だからか知らないがいつも白い木材みたいに痩せているし、若い男なのに生気も覇気もない。
死んだ魚のような目までとは言わないとしてもいつもぼんやりしているのは確かだ。
それじゃ困るのだ。こっちが。
那智だってあまり健康的な方ではないが、以前自分を助けてくれた恩人である刻人には元気でいてほしいと思う。
この時代の日本で栄養失調などで倒れてもらっては困るのだ。
なのに本人は知らんふり。
そなえつけの、まだ電波を受信しているのが不思議なくらいレトロな分厚いテレビを見ながらお笑い番組を指差し「ねえこれ、面白いよね?ウケるよね」と言っても帰ってくる返事は上の空。
「……そうなのか?」
そうなのかじゃねえよ!
那智は心の中で一人で突っ込む。
那智自身は別に面白いともなんとも思ってない。でも刻人さんが好きなら一緒に楽しめるし、まあ嫌いでもそれがわかるだけまだマシだ。
そう思ったのに、なんでこちらの疑問というか知りたいことに疑問で返してくるんだこの男は。
内心にえきらない思いを持て余して那智は歯噛みしていた。
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