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「日照るよねえ……」
ぼんやりとソファでごろ寝をしながら那智は一人でテレビを見ていた。
今日は刻人が役所の手続きだかなんかの契約内容の更新だので珍しく外出している。
なのでこうして那智も珍しく一人でテレビを見ているわけである。
芸人が一人キャンプをやるという内容らしいが話題が耳を右から左でまったく頭に入ってこない。
ぶらぶらと腕をソファの下に垂らしていると何やら湿っぽいものが指先に触れた。
ビクッと跳ね起きるとソファの下を覗く。
二つの目が虚ろなガラス玉のように光っている。
闇からそれが這ってきた。
なーん。
その鳴き声を聞くと那智は緊張を解いた。
「なんだ猫じゃん……」
那智のことはお構いなしに猫は床に背中を擦り付けている。かゆいのだろうか。
まあこんなところにいたら無理はない。
アスファルトむきだしの床は埃や土にまみれている。
正直絶対素足では歩きたくない。
俺だってかゆくなりそう、と思いながらそっと手を伸ばす。
動物は嫌いじゃないのだ。
むしろ人間よりはずっと好きだ。
「なにお前ここの子なの?」
思ったより手触りがよく時間の許すまで撫で回し続けたい気分だったが、突然猫は飛び退くと毛を逆立てて那智を威嚇した。
「うわ。なんだよ可愛くないやつ……」
那智が顔をしかめたところで、ドア口から声がした。
「あのう」
見ると長い髪を垂らした女が立っていた。
白いワンピースで細身の身体。
年齢は20そこそこといったところだろうか。
なんでそんなところに、と思ったが理由を思い当たって那智は言った。
刻人はいわゆる霊魂を含めた超自然的存在とやらが「視える」人間である。
それを頼って仕事を依頼しに訪ねてくるものが時折いるのだ。
いわゆる心霊関係の。
「あ、もしかして依頼の人?悪いけどここの主人今留守なんだよねえ」
依頼の予約があるなんて言ってなかったのに、と思いながら那智は視線を投げた。
「まあそこに突っ立ってるのもなんだし、入りなよ。なんのお構いもできないけど」
那智がそう言うと女はすうっと入ってきた。
それこそ足音も立てないくらいにそっと。
そして、なぜか。
笑った気がした。
音も立てずにソファに座ると女は那智に言った。
「ここへはお願いしにやってきたんです」
お願い?依頼ではなくて?
いや、依頼の婉曲的な言い回しだろうか。
「悪いけど。俺霊感ゼロだし、そっち方面のこと全然わかんないんだよね。刻人さん頼ってきたってことはその……心霊的なトラブルでしょ?」
「……そうとも、いえます。では」
女はじっと那智を見た。
黒目がちなその形に、なぜか那智は不穏なものを感じとる。
首筋の毛がちりちりする。
それが恐怖だと気づく間もないまま、女は口を割った。
「ついてきて、話だけでも」
目の錯覚だろうけど口が三日月の形に裂けたように見えた。
後に思い出してもなぜだろうと思う。
那智はその言葉を、断れなかった。
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