セフレ女の過去

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会社の最寄り駅に着く頃。 歩道上で倒れている高齢女性を見つけた。 「…っ」 まばらに周りを囲む人たち。 駆け寄って跪き、肩を強めに叩く。 「大丈夫ですか?大丈夫ですか?」 数回するが、反応がない。 少し前に消防署で受けた、救命救急のためのBLS研修を思い出す。 意識なし。 呼吸は? 胸、腹は動いてない。おそらく呼吸停止だ。 パッと顔を上げた。 「協力してください!」 周りを取り巻く人を見上げる。 「そこの赤いコートの男性の方!」 「は、はい」 「あなた、119番通報をしてください!」 「は、はい」 「あなた、そこの白いコートの女性の方!」 「はい?」 「AEDを持ってきてください!」 「は…はい」 「わからなかったら近くのお店で聞いて」 「はい!」 鞄を置き、コートを脱ぎ捨て、高齢女性の胸元を開く。 位置を確認して、胸骨圧迫を開始した。 “ステインアライブ”のリズムを頭の中で歌う。 1分間に100回。 あ、は、は、は、ステインアライブ、ステインアライブ、あ、は、は、は… 寒いのに徐々に汗ばんでくる。 「手伝います!」 1人の若い男性が対面に来てくれる。 「ありがとうございます!」 「僕は研修医です」 「ああ、よかった」 心からホッとする。 「お姉さん、救急車到着すんの、あと5分ぐらいだって!」 赤いコートのやんちゃそうな男性が真剣に言ってくれる。 「ありがとうございます!」 研修医の男性が腕まくりをした。 「代わります。あと10回カウントで」 うなずく。 「「1、2、3、4、5、6、7、8、9、はい!」」 胸骨圧迫を交代した。はあ、と息をつく。 研修医の方はさすが、無駄なく安定感のある動作だ。 「AED持って来ましたー!」 白いコートの女性がほほを紅潮させながら跪く。 「ありがとうございます!」 すぐにAEDを開く。 それからも何人か、胸骨圧迫を習ったという人たちが来てくれた。 この人が助かるといい。 心からそう思った。
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