あそぶ、あそぶ。

2/5
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 ***  母方の祖父母の家に住んでいたのは二年ばかり。  隣の家ってドコ?と思うくらい、周囲は畑と森が広がっているような場所だった。道にぽつん、ぽつんと街灯が立っていたが、それでも家周辺を僅かに照らすばかりである。夜は真っ暗で、とてもじゃないが暗くなってから外遊びなんてできなかった。両親も、日が落ちる前に必ず家に帰ってくるようにと僕達に口が酸っぱくなるほど言ったものである。  ド田舎で近くにコンビニもないし、なんならスマホの電波もあまり良くない。そんな不便が多い土地だったが、景色が綺麗なことだけは間違いないのだった。  夜になると、都会では見られなかった満天の星が見える。  そして、月とはこんなに明るいものだったのか、と満月の夜になると思い知るのだ。青白い月明かりに照らされた庭はなかなか幻想的で、夜中にトイレに起きた時その景色を眺めるのが僕は結構好きだった。  そして、月がない時は遠くの方に小さく、駅の明かりが見えるのである。まるで遠い海の向こうに浮かぶ星屑を纏った島のよう。もし僕がもっと絵心のある子供だったなら、あの景色を絵に描いて今でもどこかに飾っていたかもしれない。  さて、そんな家に住み始めてすぐの頃のことだ。  だいたい、夜中に一度はトイレに起きることが多かった僕。トイレは一階にしかなかったので、二階で寝ていた僕は階段を降りて、庭に面した廊下を通っていく必要がある。その夜僕は欠伸をしながらこわごわ階段を降りていた。そこで、たたた、たたたたた、と走っているような音が聞こえることに気付いたのだ。 「ん?」  月夜の遭遇。見れば、庭を小さな二つの影が走り回っているではないか。ピンクのパジャマ姿の女の子と、真っ白な大きな犬である。愛犬と妹であるとすぐに分かった。妹はなんとパジャマのまま、縁側のサンダルを履いて庭で犬と遊んでやっていたのである。  それも、月が出ているような深夜に。  確かに、あの犬はなかなかやんちゃな性格だった。変な時間に起きて妹や僕を起こし、ワンプロを仕掛けてくるようなことも少なくなかった。まあ、体は大きくてもまだ子犬だったから、やんちゃなのは仕方ないのかもしれないが。しかし、深夜に叩き起こされて律儀に遊んでやるとは、妹もなかなか親切だと思ったものである。  しかもよく見ると、ボールを投げてやっている。妹がボールを投げて、犬がそれを取ってきて、を繰り返しているようだ。時々嬉しそうに吠える声が混じる。ここが都会でなくてよかったなあ、なんて場違いな感想を抱いてしまった。夜中にこんな大騒ぎをしていたら、近所迷惑だと叱られているところだ。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!