あそぶ、あそぶ。

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 幸い、先述したようにこの家はド田舎のド真ん中に存在している。隣の家ってどこですか?というくらいに近くに民家の一つも見当たらない。多少犬が走り回っても吠えても、それで怒ってくるような人は一人もいないような環境だったわけだ。 ――元気だなあ、あいつ。  本当なら兄として、一緒に遊んでやった方がいいのかもしれない。妹はまだ小学校一年生。夜中に遊ばせていい年ではない。  しかし、僕はトイレになんとか起きたところで、正直ものすごく眠かった。頭も全然回っていなかった。  薄情と言いたければ言え、僕は庭で遊びまわる彼らに声をかけることもせず(そもそも距離が離れていたので、声をかけるには大声を出すしかなく、さすがにそれは憚られたというのもある)、そのままトイレに行って就寝してしまったのである。  案の定、妹は翌日寝坊して母に怒られていた。妹は言い訳もせず、ぷう、と頬を膨らませていたのを覚えている。そんな妹の布団の横で、犬がぐーすかぴー、と満足そうに寝ていたのも。  そんなことが、それから何度か繰り返された。  僕がトイレに起きると、庭でパジャマ姿の妹と犬が遊びまわっていて、翌朝寝坊してきて叱られるというループである。ただ、流石に暗くて危ないからなのか、彼女と犬が深夜に遊ぶのは月の明るい晩に限定されていたが。  ある日僕は、妹に尋ねたのである。お前深夜によく、あいつと遊んでやるなあ、と。  すると妹は、“だってしょうがないじゃん”とむくれたように言ったのだった。 「だって、あたしが遊んであげないとあの子怒るんだもんー。あたしじゃないと嫌みたい。好かれるのは、嫌じゃないけど。夜中に起こされるの、ちょっとつらいです。お兄ちゃんたまには代わってよお」 「え、むり」 「即答!」  語彙が豊富な妹は、あっさり断ってきた僕をそれはそれはバリエーション豊かな言葉で罵倒してきたものだ。まあ実際、僕は隣の部屋で寝ているはずの妹と犬が起きる気配も毎回気づかないし、トイレに起きない限り彼らが遊んでいることも知らないままで終わっていただろうが。  しかし、とここで一つ疑問に思ったものである。  確かに僕は、物音に敏感な方じゃない。天気が荒れて雷が鳴りまくっていても、まったく気にせずぐーすかぴー、と眠り続けることができてしまうくらいには。  でも、両親、特に母は違ったはず。前に住んでいたアパートでは、僕がトイレに起きてペーパーをからから回すだけで“静かにして!目が覚めるでしょ!”と怒っていたような人だ。そんな人が、庭で派手に遊んでいる二人に気付かず、眠りこけたままなんてことがあるのだろうか? ――まあ、広い家だし。アパートより、部屋も遠いから気づかないのかな。  この時、僕は呑気にそんなことを思っていたのだった。
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