あそぶ、あそぶ。

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 ***  それからしばらくして、父は再び転勤になり、僕達は祖父母の家から引っ越すことになった。愛犬も置いていくことになり、妹は少し寂しそうにしていたのを覚えている。まあ、あんな大きな犬が飼えるのはこれくらい大きな屋敷でないと無理だろうし、僕達が引っ越す予定のアパートはペット禁止だからどうしようもないのだが。  T県、Y県、S県。  そうやって転勤を繰り返し、最終的に僕達は都内に戻ってきて、父の転勤もひと段落した。それが僕が高校生の頃の話。ちなみに、僕は高校は都内の学校に行くと決めていたので、両親の反対を押し切って高校一年生から一人暮らしをしていた。父が都内勤務になってからはその必要もなくなり、再び実家暮らしに戻ったわけだが。  僕が大学生になった頃になって、祖父母が相次いで亡くなった。そして、あのボロボロの日本家屋も取り壊し、更地にして売ることが決まったと聞いた。まあ老朽化も進んでいたし、ド田舎だし、とてもじゃないが家付きの状態で売ることはできなかったのだろう。  気になったのは愛犬のことである。祖父母はスマホを持っていなかったので、愛犬の写真が送られてくるようなこともなかった。また、電話でも手紙でも、愛犬の話題が出るようなことはなく、彼がどうなったのかまったくわからないままになっていたのである。まるで二人が犬の話を避けているような印象だったので、僕もなんだか聞きづらくてそのままにしていたのだ。――犬は、祖父母に懐いている様子がなかった。懐かない犬のことが、二人もあまり可愛くはなかったのかもしれない、と。  また、僕達が引っ越したあたりから母と祖父母の関係が少し悪化して、正月や夏休みに足を運ぶことがなくなってしまったというのも大きい。電話時々話していたようなので関係は完全には切れていなかったのだろうが、それで余計犬のことを知る機会がなくなってしまったのである。  とはいえ、まだ生きているのならば、その処遇は考えなければいけない。今は実家も持ち家になったし、大きな犬を飼うことも不可能ではないはず。というわけで、僕は祖父母の遺品整理の話が出た時、思い切って母に尋ねたのである。 「ねえ、母さん。ばあちゃんちで飼ってた大きなワンコ、覚えてない?あの子ってまだ生きてるの?」  ここで、薄々次の展開を察した人もいるかもしれない。  母は僕の言葉に眼を丸くして言ったのだった。 「え?なんのこと?おばあちゃんちで犬飼ってたことなんかないわよ?」
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