あそぶ、あそぶ。

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 ***  つまり。  僕は子供の頃、存在しないはずの犬と一緒に暮らしていた、というわけだ。両親祖父母に懐いていないように見えたのも当然。あの犬は、彼らには一切見えていなかったのである。  思えば、餌を食べている様子も、散歩に行っている様子もなかった。さらに、僕は自分の愛犬なのに、彼になんて名前をつけたかさえ覚えていない。それをおかしいと思うこともなかった。まるで、魔法にかけられたみたいに。  だが、それでもさすがに、妹にだけは犬のことが見えていたはずだ。僕は高校生になった妹に、昔あの家で飼っていた犬と、深夜に遊んでいた件を訪ねてみることにしたのである。  すると妹は、ため息交じりにこう答えたのだった。 「信じて貰えないと思ったから、言わなかったんだけどさ。あたし、昔からこう、妙に勘が鋭いっていうか。霊感に似たものがあるって自覚あったんだよね。だから、寄ってきたんだと思う。ワンコの姿して」 「てことは、僕達が遊んでいたあの犬、やっぱり犬じゃなかったのか」 「あたし達が遊びやすいように犬のふりしてただけだと思うよ。ていうかね、あたしあの家元々好きじゃなかったの。つーか、あの家の土地がやべえって気がすごいしてた。変なものがいるなーっていうか。それが何なのかまではわからなかったけど、多分あのワンコはそのお使いみたいなもんだったんだと思う。子供心に、あの子の機嫌を損ねると良くないことが起きるなって思ってたんだよね」  だから夜中に叩き起こされても遊んでやっていたのだ、と彼女は言う。そう、彼女は彼女なりに、家族と家の平和を守り続けていたというわけだ。 「あたし達一家があそこからいなくなって、多分機嫌損ねちゃったんだと思う。おばあちゃんとお母さんが不仲になったの、多分そのせい。それからひょっとしたら……そのあとお祖母ちゃんとお祖父ちゃんが連続で亡くなったのも。……はあ、あの土地売るんだよねえ。あたしなんもできないけど、次に買う人がちょっと気の毒だなって思うんだよねえ……」  あの場所に何がいたのか、それがどれほど強いもので、良くないものだったのかはわからない。ただ、この話を聞いたみんなも注意してほしい。  妹は気づいたけど、僕は気づいていなかったのだから。  ――突然増えて、当たり前のように入り込んできたペット。それが本当に犬や猫であるだなんて、誰も保障はしてくれないのである。
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