今夜、月というものが

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「ねえカイス、どんな感じなのかなあ?」 スクールの帰り道、ルナが空を見上げる。 街灯の明かりを左手で遮って、右手で氷系魔法みたいに瞬く星空を指差す。 モコモコの赤い防寒コートは痩せっぽちのルナには少し大きくて、よいしょと伸びて袖から手を出す仕草がかわいい。 僕らの白い息もふわふわと浮かんで、星達のキラキラと混ざる様に感じた。 「大きな星だって言うけど、どのくらいなんだろ?西瓜とか人の顔くらいに見えるのかなあ?」 そしてこっちを見てそんな事を言うものだから、僕はルナの丸い顔が、空でニコニコと笑うのを想像してしまった。 眼の前にいるルナの顔と同じくらいの大きさに見えたとしたら、それはすっごく大きな星だ。 「なんで笑ってるのよお?何か想像したよね?」 「笑ってないよお」 黒い前髪を揺らして僕を見る。星空を映していた黒い瞳の中に、僕の顔がいっぱいに映る。 それを見て今度は自分の顔が漫画みたいに空に浮かんでるのを想像してしまった僕は、ルナに叩かれる前に覚えたての飛行魔法でふわりと逃げた。 まだ飛ぶって言うより浮かぶのがやっとだけど、覚えた事はやってみたくなるもんさ。 魔法を使う時に人の体は、ぼうっと白い光に覆われる。僕の光はまだビニールみたいに薄っぺらで弱いけど、防寒コートも靴もマフラーも全部光るのが楽しい。 「あっこらっ!また自分ばっかり飛んで!ずるい!」 ルナは今のところ、まだ魔法を使えない。個人差があるし、もしかしたらずっと使えないのかもしれない。 でもそんなの関係ない。僕らはパパ、ママの次にお互いの名前を覚えたそうだ。大人になるのも、大人になってもきっとずっと一緒さ。 「カイス!」 ルナが伸ばした右手を僕はぎゅっと握る。
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