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僕は、行き詰まっていた。研究がうまくいかず、途方に暮れていたのだ。気分転換に夜風に吹かれようと庭に出た。すると僕に声を掛けてくる者がいた。
「こんばんは」
私は振り返って仰天した。何故なら僕の前に、この上無く美しい女性がいたからだ。そして僕は、すぐにピンと来た。彼女は、女神様だと。
「初めまして」
「は、初めまして…」
僕は、頭が真っ白になった。そう。一目惚れと言うやつだ。
「私は、月の女神。今宵のように、月の美しい夜、月が出ている間だけ、地上に降りてくることが出来るの」
「そ、そうなんですか…。ど、どうして地上に…?」
「気晴らし。天界は、とても暇なの。だから、こうして地上に降りてきて、息抜きをするのよ」
「へぇ…。女神様にも苦労があるんですね…」
「そうよ。はぁ…。出来る事なら、もう天界になんて帰りたくないわ」
その顔は、辛く、悲しそうで、僕の心は締め付けられたのだった。
「そ、そうだ!もっと楽しい話をしよう!少しでも女神様の気が和らぐように…!」
「あら、良いの?それじゃあ…」
僕と女神様は、時が経つのを忘れて、夢中で話し続けた。そして、時計の針が、午前五時前になった頃だった。
「はぁ…。今宵は、どうもありがとう…」
「ど、どうしました⁈」
「タイムリミットよ。ほら…」
月が地平線に沈みかかっていた。
「…。帰ってしまうんですね…」
「ええ。仕方ないわ」
「また、会えますか…?」
「ええ、もちろん!今夜は、とても楽しかったわ。だから、また月が綺麗な夜にここに来るわ。約束する!」
「わかりました。僕、待ってます…。そして、今度は、もっともっとお話ししましょう…!」
「ええ。月が出てから、沈むまでの間ね」
そう言うと、女神様は、天界へと帰って行ったのだった。
そして、数ヶ月の時が経った。今宵も月が綺麗な夜になった。僕は、庭で夜風に吹かれながら、待っていた。
「今宵も綺麗な月ね」
あの声がした。僕は振り返った。
「そ、そうでしょ?僕、頑張ったから…!」
「フフフッ…!頑張ってくれたんだ…!」
「うん!そうだよ!貴女に会いたくて、貴女といつまでも一緒にいたくて…、僕、頑張ったんだ…!」
「フフフッ、ありがとう!私、嬉しいわ!」
彼女は、そう言って優しく微笑んでくれた。それから僕達は、時が経つのを忘れて話し続けた。
数時間が経った。女神様は、不意に時計を見て、呟いた。
「あら、もうこんな時間?」
時計の針は、午前五時を指していた。
「おかしいわね、まだ月は真上だと言うのに…」
「だから言ったでしょ、僕、頑張ったって」
女神様は、不思議そうな顔をしていた。
「えぇ、どう言う事…?」
「月を止めてやったんですよ。いや、正確には、この星ごと…。まぁ、要するに今日から月は出っ放しだって事です!」
女神は、目をまん丸にして驚いた。それから僕達は、いつまでもいつまでも楽しく、お喋りを続けた。だって、月はもう、沈む事を知らないのだから…。終
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