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カンデン王国の機械科学技術はどんなものなのか見ていたい、と思ったエイジ総帥はカンデン国王に面会を求めた。 ハリヤマ様の使徒という設定なので、国王に挨拶くらいするのが礼儀かなと思ったからだ。 しかし、雑な対応をされたエイジ総帥は怒ってカンデン国王や側近たちを黒髪黒目の奴隷にしたのだった。 偽神獣と言われたハリヤマ様の怒りのせいにして。 科学が発展すると神とか神秘的な事を信じなくなるものなのか。 そんな事を思いながらカンデン王宮の中を見て回るエイジ。 鍵が付いている部屋を見つけた。 財宝の保管室か? 迷惑料に金銀財宝を貰って帰るかと思ったエイジは、その鍵を開けて部屋へ入った。 そんな鍵くらい魔法で簡単に開けれるのだ。 部屋の中は書物がたくさん。 ここは本の保管室だったのか。 そして、机に突っ伏して寝ている若い女性を発見。 死んでないよな? エイジは声を掛けた。   寝ているだけなら黙って帰ろうと思ったが、机の上の設計図や計算式とかが気になったから。 身体を触るとセクハラになるので魔法で起こした。 「すみませんが、起きてもらえますか」 「ふ、ふえっ? ご、ごめんなさい、お兄様! ちょっとだけ寝てました。本当にちょっとだけ……あれ?」 「僕にはあなたみたいな大きな妹はいないです」 「お兄様、小さくなりましたか?」 「僕はハリヤマ教団総帥のエイジですよ」 「ハリヤマ……私のお兄様ではない」 「そうですね」 「どっ、どうしましょう」 「え?」 「科学で説明できない事象が発生したようです」 「その意味は」 「この部屋にはお兄様と専属のメイドしか入れません」 「外鍵があるから」 「はい。あ」 「あ?」 「私、お兄様と専属メイド以外とは話をしては駄目なんですけど」 「どうしてですか?」 「お兄様の命令です」 なるほど。 「もしかして、君のお兄様って国王?」 「はい」 「そうですか。残念ながら君のお兄様はとうの昔にモンスターに食べられていたようです」 「え?」 「人を食べて、その人に化けるモンスターがいるのです」 「ふえええっ!?」 「僕が退治したので大丈夫ですよ」 「お、お兄様がモンスターでモンスターなのに大丈夫?」 「落ち着いてください」 「お、落ち着けませぬですよ」 なかなかに天然キャラらしい。 「その設計図や計算式はあなたが書いたのですか?」 「はい。あ、いえ、と、とんでもないです、お兄様です」 「お兄様の代わりに設計図とか書いてたんですね」 「はい。あ、いえ、ち、違います」 「あなたの名前は」 「マリエヌ」 「マリエヌさんのお兄様は死んでますけど、これからどうします?」 「え、えっと……この部屋で研究を」 「国王が代わっても、この王宮に住めます?」 「あ、住めないかも、です」 「研究がしたいなら、僕の研究所とかで働きますか?」 「えっと……エイジさん?」 「はい」 「エイジさんの研究所とかって、どのような」 「そうですね」 空間収納から魔導ロボットを取り出した。 「ふええっ!?」 「これは魔力で動く機械です」 「く、空間魔法? ま、魔法が使える? え? え?」 「僕は魔法使いですので」 「い、いえ、魔法は、その、ハリヤマ王国でしか使えないのでは」 「僕はハリヤマ様の使徒なので、ハリヤマ王国の外でも魔法が使えるのです」 「ハリヤマ様?」 「はい」 スマホの画像を見せる。 「ハリヤマ様の画像です」 「ふええっ!? こ、これはなんですか!」 「僕が作った魔道具です」 「しえー! あ、あの、その人型機械は動いたりしますか?」 「もちろん」 魔導ロボットにバク転を命じた。 その場でバク転をする魔導ロボット。 「ひやー! な、なんて滑らかな動きなのですか」 「ありがとうございます」 「あ、あの、私がエイジさんの研究所とかで働いたら、そのような機械とか作れるのでしょうか」 「作れると思いますが」 「働きます! 絶対に働きます! 死んでも働きます!」 「では、この労使契約書にサインをしてください」 「はい、喜んでします」 こうして、カンデン王国国王の妹だったマリエヌは魔導飛行機でハリヤマ王国へと旅立った。 ・・・・・ 「と、言うわけなんです」 「いや、エイジ様。あまり意味が分かるような分からないような」 「簡単に言うと、このマリエヌさんはゴウドーさんの会社で研究開発取締役として働くのです」 「なぜに?」 「僕は教団の仕事とかいろいろ忙しいので。ゴウドーさん、マリエヌさんをよろしくお願いします」 「いや、しかし」 「マリエヌさん、美人ですよ」 「え?」 「スタイルもナイスです」 「確かにナイスですね」 「どこにためらう理由がありますか」 「この会社はエイジ様から委託された魔力電池や魔力バッテリーを作る会社ですから」 「知ってます」 「なので、研究所とかありません」 「無いなら作れば良いでは」 「良いんですか?」 「そりゃあ、この会社の社長はゴウドーさんです」 「なるほど。分かりました」 「マリエヌさん、独身で恋人もいないそうです」  「なるほど。それも分かりました」 こうして、マリエヌはゴウドー魔力電池工業で研究開発取締役として働くことになったのだった。
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