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実のところ、冬助にとって家事はそこまで苦痛というわけではなかった。何故なら彼はものぐさである以上に、潔癖症だったからだ。母親、姉、冬助三人の当番制で回していたころの由利本荘家は、まるで台風が過ぎ去った後のように散らかっていた。だからまあ、結果オーライということで、彼は納得していた。
執拗に掃除機をかけた三人掛けソファに腰を下ろす。大きく息を吐くと気が抜けて、どっと疲れが押し寄せてくる。思えば今日は午前七時から、ずっと掃除に掛かり切りだった。
そういえば、今日は二限から講義があった気がする。「うん、行く気しねえな」潔く頭の隅に追いやる。「漫画でも読むか」
スマホを取り出そうと、デニムのポケットを探る。
「あれ?」
定位置に、モノが入っていない。ダイニングテーブル、センターテーブルに目を向ける。見当たらない。
嫌な予感がして、リビングを探し回る。ない。他の部屋も隈なく探索する。やはりない。
「——くそ」こうなったら、誰かに電話をかけてもらい、コール音に頼るしかない。だが生憎、由利本荘家に在宅なのは冬助だけ。
「なんだよお」
途方に暮れ、雑巾をかけたばかりの床にうつ伏せになった。
「ただいまあ——って何してんの」
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