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そろそろ、助け舟出した方がいいんじゃないですか。ウィンクで都子に合図を出す。探偵は煙草を一本差し出し、ウィンクを返してきた。お前も休憩してきたらどうだ、と言いたいようだ。冬助は目頭を押え、その手から煙草を叩き落とした。
「大体なんだあのパイナップルみたいな頭の男は! 趣味が悪すぎるぞ!」
「はあ? うっせえんだよ、お前には関係ないだろぶっ飛ばすぞクソジジイ!」
「祭! 吉彦さんはジジイじゃないわよ! 夜だって、まだいけるんだから!」
「知りたくないわそんなこと!」
火が消える気配はない。地獄だった。絶望だ。やっぱりバイトなんてするんじゃなかった。冬助は猛烈な後悔の念に襲われた。喧嘩を始めた依頼人一家。煙草休憩ばかりしている探偵。どっちを向いても最低だった。こんなことなら、姉と殴りあった方がまだましだった。だが、逃げるにはもう遅い。誰か助けてくれ——そう願った時だった。
「ただいま——」
長身の青年が玄関の扉を開けた。
一同が固まる中、福子夫人だけが、
「あら国正、おかえりなさい」
と朗らかに反応した。
国正と呼ばれた青年は、特に動揺する素振りを見せなかった。それどころか、
「なになに、また喧嘩かい? 父さんと祭の声、外まで聞こえてたけど。そこの二人はお客さんかな。でも身なりからして、うちに来そうなタイプじゃないな」
狐を思わせる細い目を糸のようにして、好奇心をあらわにする始末だった。
「お二人はね、探偵さんなのよ」
自慢げに言う福子夫人。
「探偵! へえ……初めてお目にかかるなあ。で、どうして探偵さんがうちに?」
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