第1話 無欲な空き巣は何を盗む

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「この間の空き巣の件を調べていただくことにしたの」 「ああ! 何も盗っていかなかったあの奇妙な空き巣のことか。なるほどねえ」 「私は反対だぞ。見ず知らずの他人を家に上げるなど、言語道断だ」 「吉彦さんったら頑固なんだから」 「それにしても、探偵かあ」国正は羽織った白シャツの襟を正し、両手をポケットに突っ込んだ。そのまま、整った顔をぬっと冬助の方へ近づけてくる。「君が探偵?」 「違いますけど」  冬助はのけぞりつつ、答えた。 「じゃあ、となりのお姉さんがそうなんだ!」  都子はニコリともせず、 「古川探偵事務所の古川都子です」  と国正に握手を求めた。狐顔の男はそれに応じた。 「探偵って、てっきり浮気調査やペット捜索に勤しんでいるイメージだったんだけど、こんな依頼も請け負うんですね!」 「依頼料さえ頂ければ」 「そっかあ。まるでシャーロックホームズですね!」 「おい国正、いい加減にしないか」  家父長、吉彦の声には怒気がこもっていた。 「いいじゃないか父さん。折角探偵さんが来てくれたんだから。お手並み拝見と行こうよ」 「そうよそうよ!」 「別に、どっちでもいい」 「お前ら……」  国正の参戦により、戦況は偏り始めていた。すっかり分が悪くなった吉彦は、腕を組み憮然としている。 「ちょっといいでしょうか」  ここぞとばかりに、都子が挙手した。  全員の視線が探偵に集中する。
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