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「この間の空き巣の件を調べていただくことにしたの」
「ああ! 何も盗っていかなかったあの奇妙な空き巣のことか。なるほどねえ」
「私は反対だぞ。見ず知らずの他人を家に上げるなど、言語道断だ」
「吉彦さんったら頑固なんだから」
「それにしても、探偵かあ」国正は羽織った白シャツの襟を正し、両手をポケットに突っ込んだ。そのまま、整った顔をぬっと冬助の方へ近づけてくる。「君が探偵?」
「違いますけど」
冬助はのけぞりつつ、答えた。
「じゃあ、となりのお姉さんがそうなんだ!」
都子はニコリともせず、
「古川探偵事務所の古川都子です」
と国正に握手を求めた。狐顔の男はそれに応じた。
「探偵って、てっきり浮気調査やペット捜索に勤しんでいるイメージだったんだけど、こんな依頼も請け負うんですね!」
「依頼料さえ頂ければ」
「そっかあ。まるでシャーロックホームズですね!」
「おい国正、いい加減にしないか」
家父長、吉彦の声には怒気がこもっていた。
「いいじゃないか父さん。折角探偵さんが来てくれたんだから。お手並み拝見と行こうよ」
「そうよそうよ!」
「別に、どっちでもいい」
「お前ら……」
国正の参戦により、戦況は偏り始めていた。すっかり分が悪くなった吉彦は、腕を組み憮然としている。
「ちょっといいでしょうか」
ここぞとばかりに、都子が挙手した。
全員の視線が探偵に集中する。
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