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「でも祭の気持ちもわかるんだよな。だって彼氏くんすっごいイケメンで、その上高身長だったし。でも、バンドマンなのがちょっとネックかな」
「国正さんは、お父さんと衝突したりはしないんですか?」
「僕が? まさか」
国正の表情が少し曇った。冬助は手を止めて、国正を注視した。
「ゼロってわけじゃないでしょう」
「ほぼゼロだよ。僕は諍いが嫌いでね。それに——父さんの言いなりだから」
まずい。地雷を踏んでしまったかもしれない。でも、国正の話は事件の核心に迫るような気がする。深掘りしてみるか。
「言いなりですか」
「そう。ほら、出雲崎吉彦は作家だろ。今でこそ売れっ子だけど、僕が生まれた頃はまだ芽が出ていなくてね。それはもう困窮してた。だから、うちの両親はせめて僕には真っ当な道を歩んで欲しいと思ったんだろうね。そりゃもうしごかれて育ったよ。弁護士にはなれたけど、平日は例外なく朝から晩までみっちり仕事が入ってる。休日も今日みたいに午前だけ出勤なんてざら。嫌になるよほんと」
国正は自嘲気味に鼻を鳴らし、本の合間に置かれた写真立てを指さした。
「これ、うちの両親の新婚時代。ちょっと笑えるだろ?」
写真には若き頃の出雲崎夫婦が笑って写っていた。面影はあるが、現在に比べて二人とも初々しい。背景に移るアパートは、誰が見てもわかるようなボロ家だった。
「でもこの写真の二人、幸せそうですね」
「そうかな?」
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