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半回転して仰向けになると、深紅のイブニングドレスを纏った金髪の女とアイコンタクトした。姉の茨だった。
「姉貴! ナイスタイミング!」
「……はあ」
ため息をつく茨はゴミを見るような目を向けてくる。朝帰りにもかかわらず、バッチリメイクの決まったその顔は、深酒によるものであろう疲労に、やや歪んでいた。
「スマホが見当たらないんだよ。悪いが電話かけてくれ」
冬助は身を起こし、両手を合わせてお願いのポーズをとった。そんな弟へ姉は無慈悲に、
「スマホが見当たらない? そりゃそうよ。だって昨日の夜、ママがあんたのスマホ、ゴミ箱に捨てたから」
「え?」
「だから、あんたのスマホは、昨日ママが捨てたの」
「ちょっと何言ってるのか分からんのだが」
「何度も同じこと言わせんな!」
怒声とともに放たれたプラダのバッグの大振りをこめかみに食らい、冬助は再び床にうつぶせになった。しかして即座に立ち上がり、ゴミ箱へ駆け寄る。ゴミはさっき自分で出したばかりじゃん、と首を垂れる。待てよ収集場に行けば間に合うかも、とバルコニーから目を落とす。そこには『好きですかわさき愛の街』のメロディに合わせて、ゴミ袋達がメリメリと収集車に放り込まれ、吸収されていく光景がーー
絶望のあまり、両膝をつく。
「スマホは不燃ごみだろうがよ……」
無念を口にしながら両手で顔を覆った。
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