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皮肉めいた口調で話しかけられた都子は、微動だにしなかった。彼女は接客セットから離れて部屋の隅に置かれた、高さ二メーターほどの横長の本棚をまじまじと観察していた。本がぎっしりと詰め込まれた隙間に人差し指を突っ込んでは、指先についた埃を確認して眉根を寄せている。小姑かあんたは。
「無視されちゃった。傷つくなあ」
「さっきからずっと、あんな感じなのよねえ。他の部屋はさっと確認する程度だったのに」
「なんか、すみません」
うちの探偵がガサツで。気まずさにうつむく。
「奥さん。ちょっといいですか」
そんな助手の心境など察する様子は微塵も見せず、探偵は本棚を離れのこのことやってきた。
「あら、なんでしょうか」
「ここの上に置かれていたものは、これですべてじゃありませんね?」
本棚の上を指す。そこには、出雲崎家の思い出の品が並んでいた。右から、国正の名前が記された賞状やトロフィー、不気味な道化を模したヴェネツィアンマスク、達磨、日本刀(模造刀)——以上。
「ご名答。どうしてわかったの?」
夫人は目を輝かせた。
「日本刀の左脇——スペースに余裕がある上に、埃が積もっていない。何か置かれていた証拠です」
「私がお掃除苦手なこと、ばれちゃったわね」
「あそこに何があったか、教えてもらえますか」
「磁器像です。リヤドロという、スペイン製の」
「空き巣に割られたんですね?」
「何でもお見通しなのね! その通りですわ」
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