第1話 無欲な空き巣は何を盗む

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「磁器像の値段を教えてもらえますか」 「さあ……多分、二百万はしたんじゃないかしら」 「に、二百万だって!」  冬助は思わず声を上げた。皆の視線が痛い。 「うるさいぞ冬助」 「いや、だって、空き巣に二百万の像が割られたって」 「助手くんの言いたいことは分かるよ。価値を知らないっていうのは、怖いよね」  国正が嘴を挟んだ。いや、助け舟を出してくれたと言った方がいいか。 「奥さん。割れた磁器像はまだありますか」 「あるわ。持ってきましょうか」 「お願いします」  夫人が布に包んで持ってきた磁器像だったものは、センターテーブル上にそっと置かれた。布がほどかれると、大小の破片たちが顔を見せた。砕けてこそいるが、精巧な作りの像であったことは明白だった 「派手に砕けてますね。触っても?」 「かまいません」  都子は破片一つ一つを観察し始めた。小さな手のような部分を手に取って、 「この像はなんかの神ですかね」 「インド神話の女神ラクシュミーです」 「へえ、インドの」 「母から譲り受けたものなんです。結婚祝いにと」 「…………その割に、あまり古さを感じませんね」  探偵は、欠けた像の頭を矯めつ眇めつ眺めながら言った。ほんの少しだけ、福子夫人の表情に翳りが見えた。 「譲り受けたのは、最近ですから。一身上のことですので、事情についてはお話いたしかねます」
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