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「磁器像の値段を教えてもらえますか」
「さあ……多分、二百万はしたんじゃないかしら」
「に、二百万だって!」
冬助は思わず声を上げた。皆の視線が痛い。
「うるさいぞ冬助」
「いや、だって、空き巣に二百万の像が割られたって」
「助手くんの言いたいことは分かるよ。価値を知らないっていうのは、怖いよね」
国正が嘴を挟んだ。いや、助け舟を出してくれたと言った方がいいか。
「奥さん。割れた磁器像はまだありますか」
「あるわ。持ってきましょうか」
「お願いします」
夫人が布に包んで持ってきた磁器像だったものは、センターテーブル上にそっと置かれた。布がほどかれると、大小の破片たちが顔を見せた。砕けてこそいるが、精巧な作りの像であったことは明白だった
「派手に砕けてますね。触っても?」
「かまいません」
都子は破片一つ一つを観察し始めた。小さな手のような部分を手に取って、
「この像はなんかの神ですかね」
「インド神話の女神ラクシュミーです」
「へえ、インドの」
「母から譲り受けたものなんです。結婚祝いにと」
「…………その割に、あまり古さを感じませんね」
探偵は、欠けた像の頭を矯めつ眇めつ眺めながら言った。ほんの少しだけ、福子夫人の表情に翳りが見えた。
「譲り受けたのは、最近ですから。一身上のことですので、事情についてはお話いたしかねます」
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