第1話 無欲な空き巣は何を盗む

33/45
前へ
/45ページ
次へ
「ありがとうございます。ほら冬助、早くしろ」 「はあ、了解っす」  脚立に上り、本棚の上を見渡す。トロフィーやマスクには粉雪のような埃が積もっていた。賞状が入った額縁のガラスも同様だ。  右からゆっくりと、舐めるように見ていく。 「あ!」 「どうした」 「模造刀だけ、ちょっと綺麗です。誰かが触ったのかな」  他の記念品たちに比べて、模造刀にかかった埃は明らかに薄かった。それに、僅かだがさやの部分に握ったような手油の痕跡もあった。 「空き巣くんは、高級磁器像よりも刀の方にご執心だったってわけか」 「でも模造刀だとわかって、戻したのね」 「その時に、像が落ちた——」  頷く福子夫人と国正、冬助。都子はずっと上を見上げていて首が疲れたのか、頭を回してストレッチしていた。ほんとマイペースだなこの人。 「どうでしょう探偵さん。空き巣くんが残した痕跡が明らかになったけど」  国正は勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。無駄足でしたね——とでも言いたげだ。 「どうだ、二時間経ったが」  吉彦が戻ってきた。祭の姿はない。パパに怒られて傷心中といったところか。いずれにせよ、タイムオーバーだ。皆が都子に注目した。多分、期待はこもっていなかった。 「奥さん。捜査はこれで終了です。後日、お一人で事務所へ来てください。必ずお一人で、お願いします」 「は?」  細い目を見開き、啞然とする国正。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加