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「捜査はもうよろしいのかな?」
「はい」
「真相はわかったのですか?」
福子夫人不安そうだ。
「ほぼ明白になってます。これから事務所に帰って少し整理します。明日以降に話せるかと思います」
「今ここで話すことはできないと」
「あくまで依頼人は奥さんなので。話せるのは奥さんだけです。では、これで」
都子はそう話を切ると、
「帰るぞ、冬助」
固まった助手の背中を叩き、玄関から出て行ってしまった。
冬助はもう何が何だか、わからなかった。
7
福子夫人は翌日の午前九時にやってきた。着席を促されてソファに腰を落ち着けた夫人はそわそわと上目遣いで、足を組み煙草を吹かす探偵を見ている。緊張している様だった。
エプロン姿の冬助はそんな依頼人にお茶を出しながら、昨日事務所に帰った後のことを思い返していた。都子は事務所に戻るなり、
「二階で見聞きしたことを話せ」
と冬助に求めた。鮮明な記憶をそのまま語ってやると、探偵は満足そうに頷き、もう帰っていいぞとひらひら手を振った。この日のバイトはそれで終わった。
そんなわけで、冬助も事件の真相は知らずじまいなのだった。
「あまり焦らさないでくださいます? 昨日は気になって夜も眠れなかったんだから」
もう我慢ならんと身をよじる福子夫人。
「では始めますか」
都子は煙草を灰皿に押し付けた。
ゴクリ。冬助は生唾を飲んだ。
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