6人が本棚に入れています
本棚に追加
「結論から言います。奥さん、出雲崎家に空き巣は入ってません」
「——えっ?」
驚きの声を漏らしたのは冬助だった。
「なんで君が驚くんだ」
「え、だって、そんな」
「どういうことか、説明していただけるかしら」
意外にも福子夫人は冷静だった。感情の読めない微笑を浮かべている。
「家を拝見させてもらって、いくつか違和感を見つけました。例えば、客間の本棚です。空き巣は本棚の上を物色したとのことでしたが、それにしては奇妙な点がありました」
「そうだったかしら」
「本棚の上を物色する際、空き巣は脚立、椅子、スツール等々——足場になるものを一切使っていなかったんです。これ、空き巣の行動としておかしいでしょう?」
「あまりピンときませんが」
「想像してください。仮に奥さんが空き巣だったとする。もしあなたが高さ二メーター三十センチの本棚の上を漁るなら、足場を用意するでしょう。私でもそうします。この高さがポイントです。人間はどんなに高身長でも、せいぜい二メーター弱が限度です。二メーターの人間が、二メーター三十センチの棚の上を漁ったらどうなるか。背伸びして腕を必死で伸ばして、ようやく届くくらいでしょう。つまり、客間の本棚をしっかりと物色するには、背丈を伸長する足場が不可欠になるというわけです」
「理解はできるけど、それが空き巣とどう関係するの?」
最初のコメントを投稿しよう!