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「それが違和感その三です。唯一空き巣が触った痕跡のあった模造刀、これも変だ。空き巣は金品を求めて出雲崎家に侵入したはず。なのに、せいぜい数万円の価値しかない模造刀に指紋が残らない形とはいえわざわざ素手で触れた。もしこの犯人が空き巣を食い扶持にしているなら、転職を勧めてやりたいくらいですよ。しかも模造刀を取ろうとしたことで、結果的に何十倍もの価値がある磁器像を破壊してしまっている。はっきり言って、この空き巣は大馬鹿者だ」
「犯行に慣れていない、素人さんだったんでしょう」
「違和感その四です。そんな素人泥棒は、何故か侵入の様子を目撃されていない。それどころか、怪しい男の姿すら近隣住民に目撃されていない。侵入方法も開け放されていた風呂場の窓からという、事前偵察を要する計画的なものでした。不思議ですね、侵入の段階まではプロ並みの腕前なのに、いざ盗みとなるとド素人になり下がる」
「…………そうね」
福子夫人は俯き、消え入るような声で同意した。
「ですがこれら四つの違和感も、最初に私が言った結論を前提とすれば、むしろ真実を支える根拠となります。出雲崎家に空き巣は入っていない。つまり、出雲崎家を荒らしたのは空き巣ではない。順に考えていきましょうか。
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