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違和感その一。犯人は本棚の上を足場無しで物色した。犯人が空き巣でなかったとしたら、これは単純ですね。身長の高い人間が横着して足場を使わなかっただけです。
違和感その二。割られた磁器像。これはその横着による失敗だと考えられます。では、磁器像が割られた原因は?
それが違和感その三ですね。模造刀だ。犯人が模造刀を取ろうとして磁器像を落としてしまった。この推測自体は合っていた。逆に、犯人の目的は最初からこの模造刀だったことになります。
最後、違和感その四です。目撃者皆無という事実。さもありなん。だって、犯人は空き巣ではないのですから。警察に『空き巣っぽい怪しい人物を見ましたか』と訊ねられて、イエスと答える人はいないはずだ。
まとめましょう。出雲崎家を荒らした犯人は模造刀を足場無しで取ろうとして、誤って磁器像を落としてしまった。目撃者がいないのは、犯人が出雲崎家に出入りしていて違和感のない人物だったから。ここまでいいですね」
「はい」
福子夫人の返事は小さかった。
都子は足を組み替えて、冷めた緑茶を一気に飲み干した。茶碗を置くと、真顔のまま話を再開した。
「ところで聞いておきたいのですが、犯人を知りたいですか?」
「…………」
福子夫人は頬に手を当て、目を瞑った。迷っているようだった。やがて静かに目を開けると、
「教えていただけますか」
神妙に答えた。
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