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「馬鹿じゃないの」真っ白な灰となって今にも吹き消えそうな弟を、茨はいつの間にか冷蔵庫から取ってきた缶ビール片手に、一笑に付した。「スマホなんて、また買えばいいじゃない」
「あのな姉貴、俺は大学生だぞ。スマホなんて高価なもんポンポン買えないんだよ」
冬助にとって、スマホを破壊されて一番困るのは、もう一度買い直すにあたっての機種代だった。内部データはバックアップがあるので、そこは安心だった。
「バイトくらいしなさいよ。っていうか——」茨は何か思い出したかのように、顎に人差し指を当て「昨日ママが言ってたわ『通信料も自分で払え。あと小遣いも今月からなし』って」
「そ、そんな。非道すぎる。今日から俺、どうやって生きていけば……」
「だから、バイト——」
「嫌だ! 断固として拒否する。働きたくない! 俺は掃除とゲームだけやって生涯を終えるんだ!」
床を転げまわり、駄々をこねる冬助。
「あんたねえ……」
憐憫の眼差しを向ける茨。
「大体あんた、十九にもなってお小遣いもらってるの、恥ずかしくないわけ?」
正論が耳に痛い、とでも思ったか。
「全然。むしろ、そんな自分を誇りにさえ思うぜ。社会に迎合しないロックンロールさにね」
「開き直るな!」
ドレスをはためかせ放たれた、茨の強烈な前蹴りが冬助のボディに炸裂した。
「痛え! なにすんだ!」
「なによ、労働に彼女でも取られたの?」
茨はソファに腰を落ち着けて足を組む。
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