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「だってさ、どうせ、労働なんてクソじゃん。ネットの掲示板にそう書いてあったし」
「情報の出どころが眉唾ね……いい? 冬助。労働は確かにクソだけど、それだけじゃないわ。当然お金も稼げるし、それ以外にも得られるものがある」
「例えばなんだよ」
「地位、名誉、もしくはその両方を持った男とか」
「それは姉貴だけだろ」
「他にもそうね——やりがいとか?」
「やりがいを感じる仕事がない」
「それはあんた次第よ。ほら、何かないの、やってみたい仕事。今あたし機嫌良いから、あんたの希望のバイト先、紹介してやってもいいわよ」
冬助は腕を組み、うなった。これは困った。茨の職業はマルチタレントだ。全く売れていないが、彼女は芸能界に始まり各方面へ顔が広い。下手に現実的な職業を言い出せば、「なら決まりね。すぐ紹介してあげる。まさか断ったりしないわよね」と不本意ながらバイトに勤しむ流れになってしまう。——これは慎重に言葉を選ばなければならない。神妙な面持ちで姉の方を向く。
「スパイか探偵だな。あ、でも危険な目に合うのは嫌だから、助手くらいがいい」
完全に社会を舐めた発言だった。勿論本気ではない。これはよくある、無理難題を出して婉曲的に断ろう作戦だった。ところが、
「スパイは無理だけど、探偵助手のバイトならあるわよ」
予想外の答えが返ってきた。
「な、な、な、なんだと」
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