第1話 無欲な空き巣は何を盗む

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「だってさ、どうせ、労働なんてクソじゃん。ネットの掲示板にそう書いてあったし」 「情報の出どころが眉唾ね……いい? 冬助。労働は確かにクソだけど、それだけじゃないわ。当然お金も稼げるし、それ以外にも得られるものがある」 「例えばなんだよ」 「地位、名誉、もしくはその両方を持った男とか」 「それは姉貴だけだろ」 「他にもそうね——やりがいとか?」 「やりがいを感じる仕事がない」 「それはあんた次第よ。ほら、何かないの、やってみたい仕事。今あたし機嫌良いから、あんたの希望のバイト先、紹介してやってもいいわよ」  冬助は腕を組み、うなった。これは困った。茨の職業はマルチタレントだ。全く売れていないが、彼女は芸能界に始まり各方面へ顔が広い。下手に現実的な職業を言い出せば、「なら決まりね。すぐ紹介してあげる。まさか断ったりしないわよね」と不本意ながらバイトに勤しむ流れになってしまう。——これは慎重に言葉を選ばなければならない。神妙な面持ちで姉の方を向く。 「スパイか探偵だな。あ、でも危険な目に合うのは嫌だから、助手くらいがいい」  完全に社会を舐めた発言だった。勿論本気ではない。これはよくある、無理難題を出して婉曲的に断ろう作戦だった。ところが、 「スパイは無理だけど、探偵助手のバイトならあるわよ」  予想外の答えが返ってきた。 「な、な、な、なんだと」
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