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第1話 無欲な空き巣は何を盗む
1
毎週水曜は何の日か。神奈川県川崎市多摩区登戸の、普通ごみ収集日である。
時刻は午前九時ちょうど。そろそろ、収集車が来る時間だ。エプロン姿のマダムや、これから出社であろうスーツ姿のサラリーマンが、パンパンに膨らんだゴミ袋を両手に、収集ボックスへ駆け足で集まってくる。
そんなご近所さん達の慌ただしい姿をマンションのバルコニーから見おろしつつ、由利本荘冬助は「ふう」と一息ついて、額の汗をぬぐった。
「前日にゴミをまとめて置かないからそうなるんだ」
余裕の表情を浮かべてそう呟く彼は、私立S大学に通う大学生。成績は下の下。サークルや部活への所属はなし。アルバイト経験ゼロ。趣味はゲームと漫画。勿論彼女もなし。まとめると、中々のろくでなしだった。
そんな冬助がゴミ捨てに勤しんでいるのには、深いわけがあった。ある日、講義をサボって家でぐうたらしていたところ、総合格闘家である母親に突然、『家事か死か、選べ』と迫られたのだ。
家事オア死。逡巡の末、彼は家事を請け負った。
「ゴミも片付けたし、掃除機もかけた。雑巾がけもしたから床も完璧」
仁王立ちでリビングを見渡して、頷く。
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