月夜のショコラティエ

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「俺たちは学校で、まず初めに人間のことを学ぶんだ」 ああ そうか… 「魔法がなければこの国は成り立たないのに、魔法使いを虐げて俺たち怪物(モンスター)を排除する。まあ、人間は俺たちの食糧ではあるから、無理もないけど」 ルカは僕をぎゅっと抱きしめた。 「おまえみたいにいいヤツもいるのに」 「…それは、僕も同じだよ。ルカは素直でとても優しい。ずっとそのままでいて欲しいよ」 「レイがいなくなっちまったからなぁ…。何だか色んなことがいっぺんに押し寄せて、急にグレたくなってきてさ」 ルカは寂しそうに笑った。 「セナ。少しだけ頼めるか。家に帰る力がいるんだ」 ルビーの瞳に見つめられて、僕はルカの願いを理解した。迷いはなかった。 「いいよ。ルカになら」 「もう去年の俺じゃないぞ」 白い牙を見せたルカは、ひどく大人びて見えた。弟を亡くし、怪物(モンスター)の自分と人間の立ち位置を知った。それでも自棄(やけ)にも聞こえるその言い方には、彼の優しさが残っていた。 「僕は君の友達だ。乱暴なことは出来ないだろ」 ルカは微笑むと、左手で僕の(うなじ)を掴んだ。 僕はルカを抱きしめ、体に力を入れて痛みに備えた。 前の時とは比べ物にならない激痛が走り、僕は息を飲んだ。今度は僕がルカにしがみつく格好になった。 痛みはすぐに消えて、穏やかな気持ちが沸いてきた。このまま身を委ねたくなるような、幸福感に包まれる。 これが吸血鬼(ヴァンパイア)の力… 僕らには到底抗えない 怪物(モンスター)も魔法も人間にとって脅威だ。その(おそ)れの気持ちが彼らを異質なものとして排除するという、愚かな行為を引き起こしている。 手に手を取ってなんて夢物語なのは、僕にもわかる。 だけど、せめて理解し合える者同士、友情を育むことは出来ないのだろうか。 ルカとだったら きっと… 恍惚とした僕を、ルカは不意に解放した。 「ルカ…?」 「もう十分だ。ありがとな」 そう言って噛んだ部分をぺろっと舐めた。 「痛かったろ。少し多めに欲しくて、深くまで食い込ませたから」 「うん。でも最初だけ。あとはふわふわして幸せな気持ちだった」 「そうか。よかった」 指先でそっと探ると、二つの噛み痕が触れた。 「それがあれば他の吸血鬼(ヴァンパイア)に襲われにくくなる。俺の獲物だって、マーキングの意味合いがあるから。だけど、中には手荒な奴もいるから気をつけろよ」 「うん。わかった」 「お互い様だな。怪物(モンスター)だろうが人間だろうが、優しいヤツも乱暴なヤツもいる」 ルカは立ち上がって服の汚れを払った。僕の血を取り込んだせいか、さっきよりも表情に力が(みなぎ)っている。
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