21人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
「俺たちは学校で、まず初めに人間のことを学ぶんだ」
ああ そうか…
「魔法がなければこの国は成り立たないのに、魔法使いを虐げて俺たち怪物を排除する。まあ、人間は俺たちの食糧ではあるから、無理もないけど」
ルカは僕をぎゅっと抱きしめた。
「おまえみたいにいいヤツもいるのに」
「…それは、僕も同じだよ。ルカは素直でとても優しい。ずっとそのままでいて欲しいよ」
「レイがいなくなっちまったからなぁ…。何だか色んなことがいっぺんに押し寄せて、急にグレたくなってきてさ」
ルカは寂しそうに笑った。
「セナ。少しだけ頼めるか。家に帰る力がいるんだ」
ルビーの瞳に見つめられて、僕はルカの願いを理解した。迷いはなかった。
「いいよ。ルカになら」
「もう去年の俺じゃないぞ」
白い牙を見せたルカは、ひどく大人びて見えた。弟を亡くし、怪物の自分と人間の立ち位置を知った。それでも自棄にも聞こえるその言い方には、彼の優しさが残っていた。
「僕は君の友達だ。乱暴なことは出来ないだろ」
ルカは微笑むと、左手で僕の項を掴んだ。
僕はルカを抱きしめ、体に力を入れて痛みに備えた。
前の時とは比べ物にならない激痛が走り、僕は息を飲んだ。今度は僕がルカにしがみつく格好になった。
痛みはすぐに消えて、穏やかな気持ちが沸いてきた。このまま身を委ねたくなるような、幸福感に包まれる。
これが吸血鬼の力…
僕らには到底抗えない
怪物も魔法も人間にとって脅威だ。その畏れの気持ちが彼らを異質なものとして排除するという、愚かな行為を引き起こしている。
手に手を取ってなんて夢物語なのは、僕にもわかる。
だけど、せめて理解し合える者同士、友情を育むことは出来ないのだろうか。
ルカとだったら きっと…
恍惚とした僕を、ルカは不意に解放した。
「ルカ…?」
「もう十分だ。ありがとな」
そう言って噛んだ部分をぺろっと舐めた。
「痛かったろ。少し多めに欲しくて、深くまで食い込ませたから」
「うん。でも最初だけ。あとはふわふわして幸せな気持ちだった」
「そうか。よかった」
指先でそっと探ると、二つの噛み痕が触れた。
「それがあれば他の吸血鬼に襲われにくくなる。俺の獲物だって、マーキングの意味合いがあるから。だけど、中には手荒な奴もいるから気をつけろよ」
「うん。わかった」
「お互い様だな。怪物だろうが人間だろうが、優しいヤツも乱暴なヤツもいる」
ルカは立ち上がって服の汚れを払った。僕の血を取り込んだせいか、さっきよりも表情に力が漲っている。
最初のコメントを投稿しよう!