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秋の深まりに合わせて、木々の葉は赤やオレンジに色を変え、風に揺られて舞い落ちていく。
石畳の舗道に積もった落ち葉の山に、弟たちがざくざくと音を立てながら足を突っ込んで歓声をあげている。
「セナ。これ頼む」
「うん」
ラッピングは僕の大切な仕事だ。
父さんからクッキーを受け取ると、セロファンに包んで色とりどりのリボンをかけ、籠に綺麗に並べていく。
僕は将来、父さんの跡を継いで菓子職人になろうと思っている。まだ全然下手くそだけど、見よう見まねで作ったお菓子は弟たちの格好のおやつだし、父さんも「旨いよ」と褒めてくれる。
昨日はガナッシュチョコレートに挑戦した。
温度調節の手順が難しかったけど、父さんの言う通りにしたら思いの外うまく出来た。
「来年はセナのお菓子も並べてみるか」
笑顔で髪をかき混ぜられて、とても嬉しかった。
日が暮れて、僕は店先に飾ったジャック・オ・ランタンに火を灯した。三角の目と大きな口から漏れ出す柔らかい光が、暗闇にその滑稽な姿を浮かび上がらせる。
山の端に大きな満月が顔を出した。
もうすぐ変装した子どもたちが、列をなしてやってくる。手に手に籠を持ち、意気揚々と声を上げながら。
僕はキャンディとクッキーの籠を用意して、店の扉を開け放した。夜風が入り込んで、竈の熱がまだ残る店内が気持ちよく冷やされていく。
10人ほどの子どもたちは、せーので声を揃えた。
「お菓子をくれなきゃイタズラするぞ!」
「大変だ! そら、お菓子だ。これで勘弁してくれ」
父さんとナオさんが大袈裟に慌ててみせる。
役者顔負けのパフォーマンスに、小さい子どもたちがはしゃぎ出す。掌にお菓子の包みをのせてやると、皆は大事そうに籠に入れた。
列の最後に並んでいたオバケが、僕に両手を差し出した。背は僕より少し低いくらいで、シーツが目の部分だけくりぬいてある。
「バイト・オア・トリート!」
籠った声を聞き間違えたのかと思った。
噛みつくぞ…?
呆然とする僕をよそにオバケは何か呟くと、両手を伸ばしたままゆっくり仰向けに倒れていった。
オナカ スイタ…
「うわっ」
僕は急いでオバケを抱きかかえると、両手でしっかりと受け止めた。
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