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「トリック・オア・トリート!」
毎年ハロウィンになると、その掛け声が僕の家の前でこだまする。父さんのパティスリーでは、この日限定のメニューのために、竈には朝早くから薪をくべられて大忙しだ。
日保ちがするクッキーはともかく、パイやケーキは当日のものを並べている。
今年の新作は洋梨のタルトだ。
職人のナオさんは泊まり込みだし、僕も学校を休んで手伝いをする。お菓子を作るのも出来上がっていくのを見るのも大好きだから、僕にとっても特別な日だった。
「母さんがいてくれたらな…」
時折、父さんはぽつんと口にする。
母さんは魔法使いだった。
僕は学校へ上がった年に初めて聞かされた。
弟たちはまだ知らない。
『僕も魔法使いになるの?』
『遺伝子は受け継いでるかもな。でも、生粋ではないからそんなに心配するな』
本来なら魔法は怪物が使うものだ。生まれながらに魔力を持つ者は、それが判明した時点で人生の全てを拘束され、国に隷属される。
母さんが魔力を込めたバレンタインのチョコレートは、相手に想いが伝わると評判だった。二月になると、恋をする女の子が遠くからも店を訪ねて来た。
母さんも母さんの魔法も皆に愛されていた。
だけど、この国の法律では魔法は仕事や公のためにしか使えず、私的な使用は認められない。
母さんは自分の病気を治すことは出来なかった。
『私は自分に出来ることをするだけよ』
ベッドの上の母さんは微笑んでいた。
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