いわゆる新陳代謝、スイートアーモンドより

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   ●  頭上から好きな音が聞こえる。収穫の時期まで落下せずに残っていたアーモンドの実を枝から捥ぐ時、茶色く香ばしいような、青く若々しいような形容しがたい小気味良い音が鳴る。 「今日の収穫はこんなもんだろ。後は殻を剥かないとな。裕太も手伝え」  兄は収穫したアーモンドを籠一杯にし、木から下りて来た。  兄の啓太の言葉からのみ、裕太は求められる嬉しさを感じられる。二人には両親がおらず、お互いを厚く信じ合うしかない。  啓太は小学校から戻ると、毎日アーモンドを育てる農家として働いている。通学バスで帰って来るとすぐに畑に出向く。  周囲の大人も学校には通わせてくれるが、それ以外の金銭の工面は自分たちでするように言うそうだ。  そんな兄の姿を見て、裕太はまだ五歳で木に登る行為は許されないが、それ以外の手伝いはしたいと思った。  なぜ周りに住む大人が冷淡なのか、裕太は知り得なかった。殻を割る作業で金槌を二人で握りながら一度聞いてみたが、啓太が口を割ることはなかった。  九月に入り徐々に気温が下がる時季。この日、夏用の布団で寝ていた裕太は、冷気で深夜に目が覚めた。  隣に兄の布団があるが、兄本人はいない。寝ぼけた頭で、どうしたのだろうと考えていると、外から聞き慣れない破裂音が響いた。  兄が何かやっているしか考えられない。彼のことは何でも知りたい。裕太はすぐに布団から出て、土間から外へ出た。 「兄ちゃん、何しているの?」  外に出た途端、家の屋根よりも高く燃え上がる火焔と、オレンジに光る兄の険しく歪んだ皺まみれの顔が見えた。 「こっちに来るな」  黒々とした兄らしくない胴間声が破裂音を搔い潜って届く。  動けなくなり炎と兄を観察していると、彼の足元に多くのアーモンドの実が落ちていた。 「アーモンド燃やしているの。どうして」  九月の寂し気な夜に、裕太の朱に近い悲哀色の声はよく通る。 「こんな売れないもん。育てても何もならねえよ」  兄から洩れる怒りと後悔、絶望、自己嫌悪。色々な感情がマーブリングし、最終的には黒に帰結する。 「裕太。聞け。日本はな他の先進国に比べて農薬大国って言われているんだ。このアーモンドって物は美容家が好んで食うんだ。そんな美容家なんて輩が、日本産のアーモンドを選ぶと思うか?」  裕太には兄の言う内容がイマイチ理解できなかったが、彼が追い詰められ怒りを覚えているのは確かだ。  炎の方を見ると、先端から上がる煙が形状を成し、苦しそうな顔に見え始めた。 「裕太、俺は絶対に俺たち二人以外の人間を許せない」
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