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白うさぎ
目を開くと、やっぱり真夜中だった。カーテンを透かす月光が、いつもより眩しく感じる。
負けないよう目を閉じ、夢の世界をノックしたが拒まれた。何度か試しても、一向に開いて貰えない。
ついには挑戦すら嫌になり、少し迷って密かにベッドを出た。
これだけ明るいなら、景色がよく見えるだろう。時には真夜中の景色を見て、リフレッシュするのも大切なはず。
言い訳を盾に、カーテンを開く。家を囲む緑が、光を浴びて微笑むのが見えた。明かりの濃さで、木々の頭上に月があるのも分かる。けれど、当然本体までは見えなかった。
どんな形か見たい。外に出れば見えるはず――鍵に手を翳した瞬間、お父さまにビンタされた時の記憶が過ぎる。
指がすくみ、諦めてベッドに戻ろうとした時だった。
隣り合う木々の隙間、白い何かが目に映る。未知の気配に引き寄せられ、目を凝らすとそれが生き物であると分かった。
形としては人間の青年――けれど、人とは違う存在が、幹に体を預け空を眺めていた。
ふわふわと揺れる真っ白な髪、負けないくらい純白の肌。ほんのり赤みがかったアッシュカラーの瞳。纏う衣服は所々に砂汚れをつけている――私が知る“人間”というものは、そんな容姿じゃない。
そうか、きっと彼は白うさぎだ。
耳こそなかったが、私は感覚に納得していた。
不思議の国のアリスに出てくる、アリスを世界へ誘うキャラクターが白うさぎだ。うさぎを追いかけて、物語はスタートする。
そっか、きっとここは夢なんだわ。
辿り着いた結論も、すんなりと心に染みた。
家内の音を確認し、靴下を脱ぎ捨てそっと鍵を開ける。夢なのに気配を伺ってしまうのには、自分でも少し笑えた。
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