白うさぎ

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 真夜中、お父さまは眠っている。私が家を出ないと信じきって。  いや、私だって夢でなければ言い付けを破ろうとは思わなかった。いや、破れない。  軒から一歩踏み出した先、世界は一変した。降り注ぐ光が、景色の輪郭を優しく象っている。  色数自体は、カーテン越しの昼間よりも少ない。けれど、穏やかで静かな色合いがとても美しかった。  見上げた月は、想像よりも欠けている。けれど、思う以上にくっきりと、力強く浮かんでいた。  月をよすがに走っていったなら、このまま逃げてしまえそうだ――なんて妄想を掠めてしまうほどには。  裸足に触れる土は、柔らかくて少しくすぐったい。音を飲み込んでくれるのか、気を張らなくともほぼ発生しなかった。  地を踏む感覚が、室内とはまるで違う。生命エネルギーが足裏から伝ってくるようだ。  なんて現実味のある夢かしら。  時々振り返りながら、ゆっくり進む。白うさぎは私に気付かず、じっと月を眺めていた。 「あ、あのっ……!」  囁きにも及ばない声で呼んでみる。届いたらしく、白うさぎは小さく体を驚かせた。美しい目を丸くし、すかさず背を向ける。  そのままスタートダッシュを切ろうとして転んでいた。小石に引っ掛かったらしい。 「だ、大丈夫……?」  手を差し伸べると、視線だけが重ねられ、反らされた。白うさぎは自力で起き上がり、土を払う。それから振り向いた。 「……あの、勝手に入ってごめんなさい。人、住んでないと思ってて……」 「えっと、いいのよ。ここに何をしに来ていたの?」 「光を浴びに来ていたんだ。昼間は外に出られないから」  俯きがちな言葉が、私の心を引き寄せる。同じ苦しみがあると分かり、もっと強く繋がりたいと思った。  いや、私の夢だから似た人物になっているのかもしれないけど。だとしても、夢の中の友でも私には必要だ。 「あの、私もね。外に出ては行けないって言われているの」  だからか口にしていた。積もりすぎた苦しみを、どこかへ投げてしまいたかったのかもしれない。 「えっ、もしかして病気なの?」  具体的な単語に、一瞬すくむ。アリスは病気なんだから――愛の名のもと何度もかけられた呪文は、浮かべるだけで胸を抉るようになった。 「……ううん、お父さまの言いつけよ。少し話してもいい?」
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