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それなら少し座ろうか。そう誘導され、木陰に入った。浮いた根っこが椅子を作っていた。
私がいた部屋の窓と、突き出た二階のベランダがよく見える。
私の体が、部屋の中で眠る姿が見えた気がした。今は魂だけが木漏れ日を享受している――そんな非現実な感覚がある。
「私ね、病気じゃないの。けれど、お父さまが病気だと思い込んでしまっているの」
確かに私は、幼いころ酷く体が弱かった。命が擦りきれそうな夜も味わった。
けれど、成長につれ丈夫になっていったのか、今はほとんど熱を出すこともない。ベッドに長くいるせいで、いつもどこか疲れてはいるけれど。
月の化身のように、白うさぎは静かに頷く。心を丸ごと包む視線は、するすると私の言葉を引っ張り出した。
「お母さまがご病気で亡くなられてから、お父さまは私を家から出してくれなくなったのよ」
お母さまも、私と同じ病弱な人だった。最後は小さな風邪で亡くなってしまい、そこからお父さまは私を外に出すのを怖がるようになった。昼も夜も家にいて、私を閉じ込めるようになった。
「分かるのよ。私を愛しているからだって。でも時々窮屈になってしまうわ」
一度だけ、外に出たいと叫んだことがある。けれど、頬に響いた痛みが、手のひらを見て驚いたお父さまの顔が、私の願いを完全に殺した。以降、私は求めることすらやめた。
「……あの、だからね。時々でいいの、また現れてくれないかしら」
でも、夢の中だけはいつも特別だ。話し相手ができたら、もっと特別になる。
なんて、夢の登場人物に、お願いするのもおかしいかしら。
問いかけを受け、やっと白うさぎの唇が開いた。
「それなら、この場所で待っているよ。月の光の明るい夜に」
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