夢へと逃げる

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 約束通り、白うさぎは私の夢に現れてくれた。舞台は決まって月光の明るい日で、雨や曇りの日は現れない。今日も優しく仄かな明かりが、一面を照らしていた。  私は夢でだけ少し素直になれる。  お父さまの気配を伺うのも、靴下を脱ぐのもやめられない。けれど、苦しまずに窓枠を飛び越えられた。  毎回、私を待ってくれている、白うさぎに会うために。 「今日も月明かりが綺麗ね。私、月がこんなに綺麗だなんて知らなかったわ。太陽も綺麗なのかしらね?」 「さぁ、どうだろう。でも僕は太陽が苦手だな。いや、怖いのかもしれない」  ただ月を見て話をする。幹の温度を吸収しながら、旅をしてきた空気を吸う。 「……私もそうかも。太陽の出ている間は、ずっとお父様が私を見ているもの。だから私も月の方が好きよ」 「一緒だね」  この、夢と現実が練り合わさった場所でなら、少し自由を錯覚できた。 「そうだアリス。これ君に。お詫びと感謝だよ」 「えっ」  小さな紙袋が差し出される。前置きに心当たりがなく、探してしまった。顔で語っていたのか、白うさぎがはにかむ。 「勝手に敷地に入ったこと、ちゃんと謝ってなかったと思って。それから、話ができて嬉しいから、ありがとうも込めて」 「……まぁ、貴方ってとても律儀なのね。話せて嬉しいのは私の方なのに。でもありがとう。見てもいい?」  首肯を受け取り、袋を開く。出てきたのはブレスレットだった。シルバーの編み紐に、小さな布製の青い花がついている。  可愛らしい品に、喜びと嬉しさが沸騰を始めた。 「ありがとう、大切にするわ!」 「気に入ってくれて良かった、つけてみて」 「ええ」  右手に青い花が咲く。何だかくすぐったくなり、またも全力で滲ませてしまった。
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