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さよなら
雨の音で目を覚ます。小さな雨ではあったが、雲が部屋全体を暗くしていた。まるで、幸せな夢が否定されているかのようだ。
一気に冴えてしまった脳は、幸せの後遺症を発する。憂鬱が頭をもたげ、今すぐ逃げ出したくなった。
夢を真似て、身を起こす。瞬間、端を過る色に視線が引っ張られた。私の右手で花が咲いている。
あるはずのない物体に、ここがまだ夢であると判断した。だが、聞き慣れた足音にすぐ揺らがされる。
思考が追い付かない状態で、なんとかブレスレットを袖の中へ入れ込んだ。
「おはようアリス……もしかして眠れなかったのかい?」
全身で心配を飛ばすお父さまを、ぼうっと見てしまう。
「何か怖い夢でも見た? それとも具合が悪いのかな。どうしよう、お医者さまを呼ぼうか」
だが、焦りが展開され、迅速に冷静さを取り戻した。「さっき目が覚めたところよ」と急いで笑う。今日は調子がいいとも付け足した。
安心を浮かべたお父さまが、いつも通り笑顔の鎖を私にかける。
この重圧も、演技の感覚も、足元に覆い被さるシーツの感覚も何年も味わったものだ。間違えようがない。
もしかして、私が歩いていた場所は夢の国じゃなかったの――?
気づいた瞬間、罪悪感と後ろめたさが生まれる。同時に、手放す悲しみも生まれた。
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