3人が本棚に入れています
本棚に追加
いつにもまして乗り気な友人は、大学構内で秋原先輩について聞き回り、意地でも俺に謝罪させようと奮闘していた。
写真も無いのに名前と見た目の特徴だけで捜そうとする彼には、きっと何か別の思惑があるのだろう、そうでなければここまで執着なんてするものか。
「秋原コムギさんという人なんだけど…」
「女の子?知らなーい」
「その子かわいいの?」
「かわいい」
「でも知らなーい」
「キャハハ!」
確かに秋原先輩は俺が一目惚れしたくらいにはかわいいが、正直そこまでお近づきになりたいのかと言えば疑問に思う。
彼女はいつも冷めた目をしていて、与えられた業務だけをこなし、人にプライベートの話をすることなんてほとんどない。
私服も色気や飾り気なんてゼロであり、男の匂いどころか友達の匂いすらもしてこない、一般的に見たら関わりたくないタイプの人間だ。
「…そういえばお前なんで秋原先輩を誘ったんだよ?」
「なんでって?」
「そもそも結構勇気いるだろ?」
「まあー…なんかいけそうかなって」
「それだけで?…そこまでして彼女が欲しいかね…」
「いや、欲しいだろ無論」
「お前のそこだけはよく分からんよ…」
俺もクールな先輩ということもあって、未だに少し恐怖心を抱いている、何故か直感的にいけそうだと思わなければ、きっと誘いすらできなかっただろう。
「あー、はいはいあの子ね」
「お、教授知ってるんすか?」
「うん、俺の講義出てるから」
「やっぱここの学生だったんだ!」
そんなことを考えている間、新橋の方は調査に進展があったようで、ガッツポーズをしながら嬉しそうにこちらの方を振り返った。
「で、君はストーカーか何か?」
「いやいや、ちょっとこいつが用ありまして」
「だから無いって」
「おや、君は……」
「(知られてる…?)」
何故か俺のことを知っている中年の男性教授は、しばらくその場で目を閉じて思考し、「よし」と何かを決めると話を始めたのである。
「まず、その用とやらを聞こうか」
「よっしゃ!ソウマ話してくれ!」
「なんで俺なんだよ」
「と、本人は言っているが…」
「…何とか会わせてやってください!こいつはただ謝りたいだけなんです!」
「しかし、その気が無ければ逆効果ではないかね…」
「謝れないやつですけど、今回ばかりは男を見せなきゃならんのです!」
「確かに、そういうことは人生において重大な分岐点となるものだが…」
「あの、俺の意思は…」
この教授も思うところがあるのか、過去を思い返して感傷に浸りながら考える、もはや二人にとっては俺の存在など、力を使わずとも忘れてしまっているようだ。
「よし、それならば用のある君だけ会わせることにしよう。午後の講義の後に私の研究室に来たまえ、彼女には話をつけておくから」
「はい!え?俺は?」
「俺の意思…」
こうして必然的に友は除け者にされて、乗り気じゃない俺だけに約束ができる、さすがは大学教授だが、もう少し人の話は聞いて欲しいものである。
最初のコメントを投稿しよう!