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とても困ったことになった。
そう頭を抱える俺は、重い足取りで教授の研究室へと向かっていた。
謝って何を話したらいいのだろう。
場を丸く収める素敵な言い訳が思い付かない、そもそも彼女が何を思っているのか。
秋原コムギという女性の人間性。
彼女とはバイトでそこそこ一緒にいたが、その本質は遠く理解に及ばない、時おり見せる退屈そうな横顔が、強く印象に残っているくらいである。
「はあー…一体どうしたら…」
こういう時に唯一の友は居て欲しいものだが、存在をお断りされた以上は仕方がない、俺は覚悟を決めて研究室のドアをノックするしかなかった。
「教授ー?東家です……教授ー?」
しかし何度ドアを叩いても彼は返事の一つもしない、真っ先に「そういうタイプの人か」と察する俺は、しばらくどうするべきか考えた。
そういうタイプとはつまり、研究に没頭して周りが見えなくなるタイプである、彼が何を専門にしているのか知らないが、ここの教授なら珍しくない。
生徒数が多いということは、それだけマイナーな学科もあるということで、そういう学科の教授はこのタイプが多い、故にこちらが合わせてやらねばならないのである。
「はあ………」
「………」
「…いいですかー入りますよー」
しかしドアの向こうは意外にも意外だったが、きちんと整理整頓されていて余計な物が何もない、とてもじゃないがそこは研究室とは思えなかった。
「なんかやけに綺麗だな…」
言うなれば絵本の展示室と表現するべきだろうか、もしくは観光案内所と称するべきかもしれない、表紙が見えるように置かれた本は、逆に手に取りたくなくなる魔力を秘めているのだ。
「…てか教授、呼び出しといて留守かよ」
ちなみにきちんと約束の時間に来たが、どうやら教授は留守のようである、とりあえず廊下で待つべきだと判断した俺は、部屋から出ようとドアノブに手をかける。
「帰っちゃおうかなって……あれ?」
そしてその瞬間に我が身を襲う異変に気が付いた、いくらドアノブを回しても手ごたえがない、外開きのドアに何かがつっかえて動かない、東家ソウマはこの研究室かどうかも怪しい場所に閉じ込められた。
「もしかして閉じ込められた…!?」
念のため、何度も確認するがやはりドアは開かない、偶然か必然かは分からないが他の脱出経路を探すしかない、だがそう思った矢先にがっちりと板で塞がれた窓が視界に入ると、嫌な予感は現実となる。
「…誰かに閉じ込められた…!!」
これは確実に誰かが仕組んだものだ、確信して動揺する俺の視線に飛び込んできたのは一冊の本、表紙も何もないただのノートが中央のテーブルに置かれていることに、今更ながら気付いてしまったのである。
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