NEWS1.忘れられた部屋

4/12
前へ
/136ページ
次へ
とても困ったことになった。 そう頭を抱える俺は、重い足取りで教授の研究室へと向かっていた。 謝って何を話したらいいのだろう。 場を丸く収める素敵な言い訳が思い付かない、そもそも彼女が何を思っているのか。 秋原コムギという女性の人間性。 彼女とはバイトでそこそこ一緒にいたが、その本質は遠く理解に及ばない、時おり見せる退屈そうな横顔が、強く印象に残っているくらいである。 「はあー…一体どうしたら…」 こういう時に唯一の友は居て欲しいものだが、存在をお断りされた以上は仕方がない、俺は覚悟を決めて研究室のドアをノックするしかなかった。 「教授ー?東家です……教授ー?」 しかし何度ドアを叩いても彼は返事の一つもしない、真っ先に「そういうタイプの人か」と察する俺は、しばらくどうするべきか考えた。 そういうタイプとはつまり、研究に没頭して周りが見えなくなるタイプである、彼が何を専門にしているのか知らないが、ここの教授なら珍しくない。 生徒数が多いということは、それだけマイナーな学科もあるということで、そういう学科の教授はこのタイプが多い、故にこちらが合わせてやらねばならないのである。 「はあ………」 「………」 「…いいですかー入りますよー」 しかしドアの向こうは意外にも意外だったが、きちんと整理整頓されていて余計な物が何もない、とてもじゃないがそこは研究室とは思えなかった。 「なんかやけに綺麗だな…」 言うなれば絵本の展示室と表現するべきだろうか、もしくは観光案内所と称するべきかもしれない、表紙が見えるように置かれた本は、逆に手に取りたくなくなる魔力を秘めているのだ。 「…てか教授、呼び出しといて留守かよ」 ちなみにきちんと約束の時間に来たが、どうやら教授は留守のようである、とりあえず廊下で待つべきだと判断した俺は、部屋から出ようとドアノブに手をかける。 「帰っちゃおうかなって……あれ?」 そしてその瞬間に我が身を襲う異変に気が付いた、いくらドアノブを回しても手ごたえがない、外開きのドアに何かがつっかえて動かない、東家ソウマはこの研究室かどうかも怪しい場所に閉じ込められた。 「もしかして閉じ込められた…!?」 念のため、何度も確認するがやはりドアは開かない、偶然か必然かは分からないが他の脱出経路を探すしかない、だがそう思った矢先にがっちりと板で塞がれた窓が視界に入ると、嫌な予感は現実となる。 「…誰かに閉じ込められた…!!」 これは確実に誰かが仕組んだものだ、確信して動揺する俺の視線に飛び込んできたのは一冊の本、表紙も何もないただのノートが中央のテーブルに置かれていることに、今更ながら気付いてしまったのである。
/136ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加