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『やあ、東家ソウマくん』
そのノートの1ページ目には、俺に向けたメッセージが書かれていた。
『これを読んでいるということは、脱出を諦めてしまったのかな?』
この状況は全て、この文字を書いた者が仕組んだものであり、犯人は考えるまでもなく教授だろう。
『そんなかわいそうな君に、せめて実験内容を説明してあげよう』
『まず私はこの大学で、怪能力と呼ばれるものを研究している学者だ』
思えば初めて会った時から違和感があった、向こうが一方的に俺のことを知っている時点でおかしかった。
『それは君の持っている怪異な力、今から15年ほど前に人類が突如として会得した力』
『その時、この狭い日本の全員に発現した謎の力、もちろん私も当たり前に持っている力だ』
そんなこと、いちいち説明されなくても知っている、俺が知りたいのはこの狂った男が、一体何を求めているかということだ。
『しかし私は怪能力を研究していく内に、それが平等なものではないと気が付いた』
『自分の能力が何なのか、忘れるくらいに貧弱な者がほとんどだが、時おり君のように強力な者がいる。仮に上位能力者(ディレクター)と定義しよう』
『ディレクターの能力は特殊な性質を持ち、ある条件で力が強化されることもあれば、失うこともあると私は突き止めた』
強化だか喪失だか何を言っているのか分からないが、彼は確信を持ってこの監禁を行っており、話して通じる相手ではない。
『かくいう私もディレクターの一人であり、私自身による実証実験は成功済みだ、その条件とはつまり戦いの勝敗である』
「………!」
『しかしこの戦いというのも曖昧なもので、その条件を特定するために、君に協力をお願いしている次第だ、無論君に断る選択なんてありはしないがね』
実験や協力なんて言葉を使っているが、俺に危害を与えるつもりしかないだろう、その条件次第では命を奪われる可能性すらある。
「…こいつはヤバい…!!」
考えるまでもなく、あの教授は直感的に危険だと感じる、こういう経験は初めてだが、冗談やドッキリでないことは理解できる。
『さて、前置きはこれくらいにして、まずは窓側にある私のデスクを見たまえ』
こんな力を持っているのだから、いつかはこういうことに巻き込まれるかもと思っていたが、まさかこの大学内で陥るとは想像もしていなかった。
「デスク……教授の席か……」
俺は未だに落ち着かない心臓を抑えながら、頭の中で情報をできる限り整理しながら、今はノートの指示に従ったのだ。
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