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俺を現在進行形で監禁している教授は、大学内のカフェで優雅にコーヒーを飲みながら、ひと時のブレイクタイムを過ごしていた。
この大学には多くの出店が入っており、このカフェもその中の一つであるが、チェーン店ではなく昔からこの大学にある店である。
生徒というよりは教授に人気な店で、彼以外にも多くの教授が交流の場として利用している、ちなみに常連の教授によって指定席が決まっている。
彼の席は入り口から一番離れた角の席であり、時には自分の生徒の質問に答え、時には自慢のユーモアで学生達や教授達と楽しく談笑する、表の顔は人気者というのが彼の生態だった。
「深見教授~今日の講義についてなんですけど…」
「相変わらず深見くんの視点は面白いなぁ」
「深見教授、今日一緒に飲み会とかどうですか」
「あの深見さん、今度私の実験を手伝ってもらえませんか?」
深見サトキ、怪能力以外の分野にも精通している優秀な彼は、この大学に無くてはならない存在でもある、誰もが彼の裏の顔を知ることはない、それは彼だけが持つ怪能力の賜物である。
「ははは、こんな変わり者でよければいくらでも」
彼の優れた怪能力、その発動条件はただ目を閉じるだけであり、目蓋の裏から事前に設定したポイントを観ることができる、謂わば人間監視カメラ、実験と研究を補助するための特殊能力だ。
「(さて、俺のかわいい被験体はどんな状況に陥っているかな…)」
最初にノートがあった場所を指定している彼は、俺に見えない姿で部屋の中に現れると、デスクで頭を悩ませる俺をじっくりと観察する、彼の興味は俺がどのタイミングで能力を失うかである。
「(ふむ、まだ食料の段階…か)」
「こ、これだけ……」
一方ノートの指示通り、今度はデスクのメモを発見した俺は、そこに書いてあった情報を参考に引き出しを漁り、深見教授から与えられた食料を確認していた。
引き出しの中に入っていたのは、スティック型の保存食1本だけであり、当然ながら飲み物の類いは水一滴すらない、ほぼ嫌がらせのための情報だった。
「早々に諦めろってことか…」
それもそのはずで、深見は俺がどの程度絶望すれば負けになるのかを知りたがっている、俺に与えられた情報や物は全て、そのための布石に過ぎない。
「…つまりそれが狙いだ」
「(ほう…彼は意外と…)」
だが俺は素早く彼の意図を理解すると次の引き出しを漁る、何の役にも立たない輪ゴムとトランプしかない、ソリティアでもやってろということか。
無論そんなことでは絶望なんてしない、それが狙いだと分かっているなら尚更、今まで何度も窮地から逃げてきた俺は、ある種の自信に満ち溢れていたのである。
「上等だ…逃げきってやる…!」
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