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当然ながら、この部屋は電波が遮断されているようで、スマホのアンテナは圏外であり、外部と連絡を取ることはできない。
恐らくは電波妨害装置というやつが何処かに設置されており、小さなものでは部屋一つ分ほど遮断できると聞いたことがある。
もちろん使用には正式に免許を取得する必要があり、許可が降りるのはだいたいコンサートホールや無線製造機器メーカーで、図書館くらいではダメなほど厳格なものだ。
無論、こんな私的な使い方では間違いなく許可など取っていないだろう、違反した場合はそれなりの刑罰となるはずだが、平気で破るあたり正気ではないと見える。
裏を返せば、俺を生かして帰すつもりがないようにも思えるが、そこを意識して無駄に怯えている場合ではない、ここを出なければならないことに変わりはない。
「…誰かが部屋の前を通れば…」
とりあえず俺はトランプのカードで「A、K、A、7、1」と順番に作ると、ドアの下の僅かな隙間から廊下に押し出した、「開かない」という意味の暗号である。
「いや、そもそも隙間があるなら声が届くか…?」
この部屋の防音設備がどれほどか知らないが、騒いで解決するならそもそも監禁などしていないだろう、それでも試す価値はあるかもしれないが。
「…体力を失うのは危険かもしれない。もし絶望させるのが目的なら、精神的にも余裕が無いと…」
ともかくこれが実験である以上は、できる限り体力を温存して長引かせるべきだ、時間の経過は彼の大学教授という立場にも影響してくるだろうし。
「…しかし実験なら、観察していないと意味がないはずだ…どうやって俺のことを見てる…?どこかに監視カメラがあるのか…?」
必然的に彼の能力へと近付く俺は、本棚の隅から隅まで漁って監視カメラを探し始める、それが勝利の条件だと本能的に気付いたのは、思えば才能の一端なのかもしれない。
「そもそも監視カメラさえ壊せば、実験の意味も無くなるよな…?」
「(…さすがに、ディレクターに選ばれただけのことはあるが…しかし)」
しかし実験が破綻してしまう抜け穴など、科学者である深見がうっかりで見過ごすわけもない、その致命的な弱点を埋めるのがこの怪能力で、これはただの実験ではない能力バトルなのだから。
「(これは、決して常識では計れない超常の駆け引き…その程度の思いつきなど、この俺には通用しないぞ)」
当然、監視カメラなど最初から存在せず、いくら探しても見つかるわけがない、だが監視カメラが無いという事実は、俺に新たなヒントを与えてくれたのだ。
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