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いつもより長くカフェに滞在する深見は、傍から見れば寝ているようにも見え、色々と勝手に察する店員達は彼のことを静かに見守っていた。
他の教授や生徒達も声をかけずに帰り、静寂した空気の中で誰にも邪魔されず、自分の能力に集中しながら、俺のことをじっくりと観察していた。
監視カメラを諦めて次なる指示書に従う俺を、さぞかし滑稽に思っていることだろう、自分の思い通りに事が進んでいる時は、何よりも気持ちが良いものだ。
部屋の中を右往左往して、「画用紙と色鉛筆」や「数学の参考書」を見つける俺を嘲笑う、「コーラに見せかけた醤油のボトル」や「精巧な食品サンプル」という命に関わる嫌がらせで着々と勝利に近付く。
しかし世の中には無数の可能性がある以上、全てが思い通りに進むことなんてほとんどない、警戒しているはずなのに必ず起きるイレギュラーは、いつの間にか目の前に座っていたのである。
「……ふう…」
「あ、秋原くん…!?」
「あ、やっと起きました?」
「いつからそこに…!!」
「いつって…数分前からかな?」
秋原コムギ、ふかふかのトレーナーを着た色気のない女、そういえば実験対象に取り次ぎを頼まれていたこの女が、一体どうしてここにいるのか。
「ど、どうしてここに?」
「ん、ただなんとなく?」
「(何となくで相席になるような子ではないだろう…)」
「どうかしました?汗びっしょりですけど」
「い、いや、何でもないんだよ…ははは…」
もちろん約束などしておらず、どう考えても彼女は何か確信があってこの場所に来ているに違いない、彼は必然的に新橋ワタルを疑ったが、その直後にとある可能性に気がついた。
「(まさか彼女の怪能力…?)」
「コーヒー、冷めちゃってますよ」
「ああ、そうか…飲みきる前に寝てしまったようだね…」
「………」
「(だとしたらこの状況はかなり…!)」
もし彼女がそうならば、ふとした油断で能力を奪われてしまう危険がある、この東家ソウマの観察などしている場合ではない、そして彼女の存在が彼の状況をより悪化させてしまうのだ。
「今日の教授は面白いですね」
「いつもつまらないかい…?」
「講義はいつも面白いですよ」
「君みたいな可愛い子に言われると少し傷つくなぁ」
「そうなんですか?」
「そうだよ?男ってもんはいつまでもね」
「傷ついているようには見えませんけど」
「ははは…(嘘を見抜く能力か?)」
まるでそういう能力かのように、彼女の言葉はいちいち胸に突き刺さる、意識が完全に彼女に向いてしばらくの時間が経過した、この隙に俺がとある事実に気付いたとも知らずに。
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