月に消えた最終便

1/1
前へ
/6ページ
次へ

月に消えた最終便

五月雨駅に着く前に辺りは霧に覆われていた 改札につくと薄暗いが電球が丸裸でぶら下がり なんとか視界はみえた 改札には誰かが立っていた 赤いズボンに紺色のジャケット 蝶ネクタイ 髪も顔も茶色の毛むくじゃらの駅員だ わたしたちはそーっと近づいた 最初に異変に気づいたのは高菜ちゃんであった 「ねえ ねえ」 高菜ちゃんはすみれちゃんの背後に隠れた 「さ、さる?」 すみれちゃんの言葉にわたしは駅員を直視した さるだ 人間じゃない と言っても動物園で見る生々しいさるじゃなく アニメや遊園地のマスコット的な2次元の顔をしていた 不安そうに立ちすくむわたしからすみれちゃんは キップを奪い駅員に突きつけた さるの駅員はしばしばわたしたちをみて キップ切りですみれちゃんの入場券をパチンとした 「自動改札機わたしが小学生の頃にもあったぞ」 たしかにとわたしと高菜ちゃんはうなづくも この異次元な駅に走って突入した さるの駅員はにっこり笑って改札門を開く プラットホームは夜霧で裸電球がぶら下がってるだけなので視界は乏しい 少ないながら人の気配はあった 「ねえ レンなんなの?」 わたしが聞きたいよ でも何故か今ここに来なければならない衝動は根拠のない確信に変わっていく すみれちゃんの返事を探してる間に 高菜ちゃんが「あ!」と小さな悲鳴をあげ指差した 「葉子だ」 すみれちゃんはその言葉と共に走りだした 電車の入り口へ入る葉子の後ろ姿は確かにそうであり わたしと高菜ちゃんも後に続く 葉子を追い中に入ろうとすると また改札にいたようなさるの駅員に止められた おでこにマークが入った車掌帽子のさるにだ すみれちゃんが提示したキップを車掌は指差す そこは入場券と記載されている場所だ 言葉は通じなかったけど わたしたちが持っているものは入場券で 乗車券でないと言う事だけはわかった 汽笛が高らかに鳴った 霧は突然晴れると電車の全貌があきらかになっていく 電車でなく古い汽車であった 進行方向の先端には蒸気機関車のボディが黒光りしている 高菜ちゃんがまた何か見つけて走りだした 窓からボックスシートに座る葉子を見つけたからだ すみれちゃんが窓を叩くも葉子は一切反応しなかった わたしが貸した漫画を読んでいる そして 葉子のボックスシートの向かいに見慣れた服を着た女性が座った 「お、おかあさん!!」 なんでお母さんがいんの?退院だけどなんで 葉子と廃線の汽車に乗ってるの わたしもすみれちゃんと一緒に窓を叩いた でも お母さんも葉子も無視してるとかじゃなくて テレビの向こう側のように2人で談笑してた さらに汽笛は何回鳴る わたしはなんとか中に入れないかとまた入り口ドアに戻るも車掌に制された 入り口が閉まる瞬間黒猫のボクが飛び降りてきた 汽笛は鳴る ゆっくりの滑車音からやがて機関車は加速していく スーパームーンどころでは無い巨大な満月の中汽車は消えていった また強い霧が辺りを包んだ   そして霧がすぐに晴れた時わたしたち3人は五月雨駅プラットホームにいた でも 裸電球もさるの駅員もないただの廃駅にだ 呆然とする足元で鳴き声がした 黒猫のボクが2枚の手紙を咥えていた
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加