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月の涙
警察が用意してくれた施設には数週間いた
まだいても良いと言われたけど
いつまでもと言う気持ちがあり
施設を後にした
福祉課の人が施設やらいろいろ提案してきたけど
とりあえず1度帰らせて欲しいとお姉ちゃんと無理矢理出てきた
「裁判には必ず行きますから」
と力強いお姉ちゃんの言葉に福祉課の人は何も言えなかった
とは言っても
親戚がいないからわたしたちは行く当てはない
あの家しか
とりあえず葉子の部屋に荷物取りに行くからとお姉ちゃんについてきてもらった
なんか 行きたくないのもあり
ゲームセンターとかドリンクバーとか寄り道していたら
夜になっていた
アパートの前に行くと街灯の下
大家のおばあちゃんとおじさんが何か話し込んでいた
葉子のお父さんだった
わたしとお姉ちゃんは抱き合ったまま
泣きくづれた
なんて言ったらいんだろ
なんて謝ったらいんだろ
って
わたしたちは泣きながら
なんて言ったかすらわかんない叫び声で
ごめんなさい ごめんなさいと
言った 何度も何度も
わたしたちの這うような視界に何故か
葉子のお父さんの頭が見えた
ゆっくり顔をおこすと葉子のお父さんは土下座していた
わたしたちが泣き叫ぶ間中ずっと土下座していたらしい
「久保ちゃん頭上げなよ そんなままじゃ気持ち伝わらないよ」
おばあちゃんが葉子のお父さんに言った
わたしたちがごめんなさいと言う前に
「お願いだ!レンちゃんお姉ちゃん
頼みがある」
と顔をあげてわたしたちの目を交互に直視した
葉子のお父さんも号泣していた
わたしたちは目を合わせた
「あの部屋にしばらくいて欲しい
俺も1年くらい大きな現場に入るんだ」
「久保ちゃんは下手だね わたしから説明するよ」
おばあちゃんが苦笑いした
「ようは ようちゃんがいなくなって
久保ちゃんはさみしくて仕方ないから
レンちゃんとお姉ちゃんにあの部屋にしばらく住んで欲しいだよ」
「でも うちら加害者側だし 葉子も、、」
わたしの言葉が終わる前に葉子のお父さんは割って入る
「レンちゃん違うよ うちらみんな被害者なんだよ
おれこのままひとりぼっちだと 死んでしまうよ
あの部屋にレンちゃん達が居てくれると思えばしばらく頑張れるからさ」
また葉子のお父さんは泣きながら
土下座した
「さっき警察と福祉課に電話したら
レンちゃん達あの家帰るの嫌だって言ってたらしいから
じゃ久保ちゃんの為にも少し住んでやってよ
身元保証人はわたしと久保ちゃんで大丈夫みたいだから」
わたしとお姉ちゃんはたぶん同じ気持ちだったと思う
ありがとうございますって小さな声でうなづいた
ニッカポッカを履いて 歯がかけてにっこり笑う
髭だらけの葉子のお父さんの顔が
葉子にだぶってみえた
おばあちゃん 葉子のお父さん わたし お姉ちゃん
みんなの涙は月明かりでいつもよりキラキラ光って見えた
翌日学校に行くと 何故か顔に傷だらけのすみれちゃんと高菜ちゃんがわたしのテーブルを挟んで座っていた
何事もなかったように「よ」「おはよう」と手を振る
すみれちゃんの怪我はティチャー奥野と神田にわたしの事でバトルしたらしい
高菜ちゃんはいじめっ子とやり合ったらしい
3人で久々に笑った
「ねえ あの汽車ってさ」
すみれちゃんが言い終わる前にわたしは黒猫の手紙をみせた
レン お姉ちゃんと仲良くね お母さん
レン すみれと高菜にまたなーと 葉子
3人が手紙を見て黙っていると
窓をノックする音が聞こえた
見ると黒猫のボクが座っていた
月の封蝋の黒い封筒を咥えて
Fin
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